- 作者: 上田早夕里
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: Kindle版
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『華竜の宮』*1の続編。『華竜の宮』で語られていた大異変の予告。予告が公表されてから異変が発生するまでの数十年の間の物語。
偏った読み方だという批判は甘受するが、本作の主役は「宇宙開発」である。
たとえ、どのような自然災害があろうとも、深宇宙開発の道を凍結するべきではなかったのです。
(No.6033)
大異変が来るのは確実。その大異変に備えるための資源争奪戦が激化し、一旦は沈静化しつつあった地上民と海上民との対立は高まっていく。
不満と困窮を利用して「正義」を旗印にするテロリストが登場し、更にそのテロリストを利用して利益をあげようとする組織が暗躍する。そうして資源の無駄遣いでしかない戦いが延々続いていく。前作の主人公である青澄は、今度は民間援助団体のトップとしてなんとか争いを収拾しようと苦難に満ちた努力を続けていく。この辺りは、前作から引き続くストーリーだけれど、SF的な新味はちょっと少なめ。どちらかというと、現実世界を戯画化したような展開が中心。
そんな中で、「禁断の技術」である原子力を利用し、「大異変への備え」の役に立たない深宇宙開発を行おうというのがDSRD(深宇宙研究開発協会)。遺伝子と仮想人格のデータをロケットに乗せて、25光年離れた星に送り込むという計画を推進する。
ここから先は、宇宙開発SFの定番だけれど、脅迫あり、テロあり、政治的圧力あり、事故あり、と困難が続き、そしてなんとかそれを乗り越えていく努力が続く。
本作の面白いところは、それらが主に技術的困難ではなく政治的社会的困難として現れ、解決されていくところ(技術的には「やればできる」。あとは時間と金とやる気の問題と設定されている)。主人公の星川ユイの活動も、技術面ではなく広報や渉外が大半。最後の大トラブルも、金の問題に帰着し、そして交渉によって解決される。社会との戦いは宇宙開発SFではおなじみのシーンだけれど、技術の話がこれほど少ない宇宙開発SFも珍しい。
知っている人なら、スタートレック The Next Generation の "The Inner Light"(超時空惑星カターン)というエピソードを連想しただろう。そこでは、滅亡に直面した惑星が自分たちの文化をロケットに託して打ち上げるという設定が出てくる。
我々は未来へ向かって探査機を打ち上げた。知恵を授けてくれ、この星のことを語り継いでくれる者にな
スタートレックの方では、ピカードというキャラクターとエピソード主人公のケイミンとを重ね合わせた多面性の上で様々な視点を提供していたけれど、『深紅の碑文』では長編の強みを活かして、様々な組織や慣性といったもので視点の多面性を提供している。
そのうえで、宇宙開発SFのキーとなる「我々はなぜ宇宙をめざすのか」「宇宙を目指すのは正当か」へのひとつの回答を示している。
DSRDは、少数派だから当然ではあるのだけれど、理解してくれない人達とも対話・交流を絶やさない努力を最後まで続けた。この部分は、物語中の位置づけとして重要なところだし、SFファンや宇宙ファンが自戒とすべき部分でもある。
でもまあ、やっぱり宇宙は目指さなくてはダメだよね。
いつか我々は必ず君たちのあとを追う。何百年、何千年かかろうが、プルームの冬を乗り越えて、必ず、君たちがいる場所まで辿り着いてみせる。
(No.6675)
*1: