k-takahashi's blog

個人雑記用

大航宙時代

大航宙時代

大航宙時代

Amazonのレビューコメントに

これはSFに名を借りた商船員のサスセスストーリーだけど、何の山場も盛り上がりもない駄作としか言いようがない。

という★1つの評価があり、「まあ、そう思うだろうなあ」とは思った。これといった山場や盛り上がりがないのは事実。でも、私の評価は★3つ(興味深い描写も多いが、いくらなんでも地味過ぎ)。そして一部クラスタに対しては「必読!」。
一部クラスタというのは、TRPGの『トラベラー』のファンのこと。


宇宙船サジタリウス』というアニメがあり、「どこから見てもスーパーマンじゃない、スペースオペラの主役になれない」という主題歌があるが、あれをさらに地味にして、主人公を駆けだしの新米船員にすると、イメージ的にはこの小説の設定に近づく。
新米船員が厨房部門に配属され、貿易に手を出し、昇進試験を受け、という地味な話が続く。
実は、主人公が乗り込むロイス・マッケンドリック号とその船長には別設定があり、凡百な船ではないのだけれど、それくらいの御都合主義は御容赦ということで。


本作の位置づけが分かりやすく書かれているのが訳者あとがきの冒頭

「ぼくの名前はイシュメール」という、冒頭に引用される有名なフレーズ。解説不要の読者なら直感していただけるでしょうが、この作品は船乗りの物語です。SFなので宇宙船ですが、伝統的な海洋小説の流れを汲んでいるといえます。
このフレーズは、ハーマン・メルヴィルの代表作でアメリカ文学の白眉とされる『白鯨』の第一章冒頭です。


全体は細かく切れていて、主人公のイシュメールホレイショ・ワン(はい、ここ笑うとこ)の一人称視点で、ブログのりに近い。
これがオーディオブックというスタイルに合っていたのがデビューのきっかけになったようだ。
実は、オーディオ版は著者のネイサン・ローウェルのサイトで無料公開されている。やや早口なので英語教材として聞くのは少々きついかなというレベル。


アマゾンでローウェルの本を見ると、この『 Trader's Tales from the Golden Age of the Solar Clipper』というシリーズはそれなりに売れている。なんで、こんな地味な話が?とも思うのだが、主人公のワン君は、おじさん・おばさん視点から見たときの絵に描いたような「好青年」なので、そういう層に受けているのかもしれない。(若者から見たら鬱陶しく見えるんじゃないかと思うが、どうなんだろう)


本作の原題は、"Quarter Share"。読んだ人なら分かるように「四半株」のこと。
で、続編のタイトルは、"Half Share", "Full Share", "Double Share", "Captain's Share", "Owner's Share"という分かりやすいもの。出世物語ですね。
さて、翻訳の続きが出るかとなると少々厳しそう。そもそも洋書SFの翻訳が滞り気味という現実があり、更に問題なのは第2巻("Half Share")がシリーズ中一番評価が低いというところ。Kindleで安く買える(500円)ので挑戦してしまった方が早いかも(といって、実は一冊積んである*1のは内緒だ。)



トラベラークラスタ向け追記

要するに「企業惑星に住んでいたのだが、親が事故死して身分を失いその星にいられなくなった。金が無いのでチケットも買えない。幸い第一期は商船部門の勤務になった」という18歳の若者が主人公。

  • 貨物船の乗員は45名。(No.552) トラベラーではかなりの巨大商船になるが、本作中では普通らしい。
  • 船員が持ち込める荷物はかなり厳しく制限されているが、自前の小口取引は認められている。
  • トラベラーと比べると、通常ドライブの性能がかなり低い。ワープするにはある程度重力の弱いところでないといけない(No.2496)という設定はトラベラーと共通だが、通常ドライブの性能が低いので星系内の移動に時間がかかる。一方ワープは一瞬。そのため、アステロイドのステーションから別の星系のステーションへの移動の方が、星系内の移動より早かったりすることがある。(No.2504)
  • 船の償却期間は30年(No.2008)
  • 資格と実際の配属は別で、わざと低い待遇で雇用されるという選択もできる。これもトラベラーと同じ。
  • 本作に出てくる「株」は利益分割単位のことで、船員でも船に利益が出れば配当が受けられる。船全体の利益を総株数で割って配当が決まる。四半株というのは1/4のことで、ようするに取り分が少ないということ。これはトラベラーのルールには明記されていないけれど、PC達はほぼこういうやり方を決めていることが多いのではないかな

*1:

Victory Conditions (Vatta's War)

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