k-takahashi's blog

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メディア・バイアス

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

 先日「アルツハイマー病の誤解」という本を読んだ(http://d.hatena.ne.jp/k-takahashi/20070601/1180710629)。あの本は、既存メディアがいかに救いがたい存在であるかということを示す生き証人のような本だったが、安井至先生が同時に紹介していたもう一冊も読んでみた。こちらはアタリだった。


 内容は、著者の松永和紀氏が自らの体験と取材と情報収集とから得た「メディア・バイアス」についての実例と分析をまとめたもの。

 「メディア・バイアス」というタイトルとは裏腹に、メディアの責任ばかりを追及する本にはなっていない。メディア・バイアスを生み出す構造の中には、不用意な科学者や無責任な活動家、不勉強な市民もしっかりと組み込まれている。


 健康情報、フードファディズム、警鐘報道、添加物バッシング、自然志向、昔は良かった、マイナスイオン、水伝、遺伝子組み換え、バイオ燃料トランス脂肪酸。食品関係を中心に非常に丁寧な説明を行っている。何が事実で、どのような実験や研究が行われてきていて、それがどのような状況にあるのか、今研究すべきことは何か、何を気をつけるべきなのか、などが明確に語られている。この辺に関心のある人にとっては今更な情報ばかりだが、説明が丁寧で分かりやすい。なにより一冊にきちんとまとまっている。


 また、著者自身が、かつて無農薬信仰に従って記事を書いてしまったことや、娘の学校で行われた水伝授業に抗議をしなかったことも逃げずに記している。作者の誠実な姿勢が現れている部分だと思う。
 水伝のところから引用すると、

 担任教師を表立って批判するような行動はなるべく避けたいという本音もありました。あの頃は、「水からの伝言」やカビの話がこれほど広まることになるとは考えもしませんでした。「あのとき、学校に抗議に行くべきだった。私は、科学ライターであり科学コミュニケーションを行う者としての義務を怠ったのかも」と今も時々思い出し反省します。(p.190)

となっている。

 更に、著者はフリー科学ライターの境遇(収入)についても明らかにしている。そして、

 フリーランスのライター業界では、努力して優秀な科学ジャーナリストを目指すより、トンデモ情報を垂れ流すライターになる方がはるかに”儲かる”、いや、そうでないと”食っていけない”のが現実なのです。(p.240)

と語っている。それでも松永氏は頑張っているわけで、これと比較すると毎日新聞の小島正美の救いがたさがよりいっそう際だつ。


 安井先生の推薦は、実は手の込んだ既存メディア批判だったのかも、というとうがちすぎか。


 さて、最後に、「科学者の倫理」の節で著者が推薦している科学者について。私が一本リンクを張ったからすぐに世界がどうなるものでもないが、こんなものでもWeb2.0的な観点からは「やるべき」行動なので。

(中身が全部正しいとは思わないが、少なくとも科学の言葉を使っている限り、議論はできるのです。一方、あっちの世界に行ってしまった人とは、そもそも会話がなりたたない。)