- 作者: 堀晃
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/02/21
- メディア: 文庫
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そんな送電基地の一つ「ダムキナ基地」へ向かう輸送船に緊急指令が入る。基地で事故が起きたのでプランを変更する。シャトルで人を送るから合流せよ、と。
物語はその後、基地で行われていた謎の実験、事故の調査、そして新たな実験計画へと進んでいく。
広大な空間を前にした不自由さ、地球、太陽系、宇宙船、そしてそれに絡む人々にまつわる微妙な境界意識、個々の思惑の違いから生まれるコミュニケーション忌避、居住空間に漂う生活臭、そしてそれらが生み出す疎外感と宇宙の冷たさ。一方で目の前にそびえる巨大で強力なバビロニア・ウェーブ。このバビロニア・ウェーブはレーザー定常波ゆえ直接は目に見えないのであるが、それを重い存在感を伴って感じることができる。この感覚が本書を読む醍醐味なのだと思う。
一方で、1〜2桁小さい範囲を扱うCETI、数十万倍遠い範囲を扱うクエーサー観測が登場することでの距離スケール感の伸縮。バビロニア・ウェーブの直径1200万キロ、そこからわずか7万キロしか離れていないところに浮かぶ観測基地、そこを飛び交う大きさ数メートルのスクーター、地球から3光日、こういった移動距離の伸縮。実験への関わりの期間も、2年、10年、数十年、数週間、と様々に異なることによる意識の違い、など心地よい目眩感も味わえる。
マルドゥク基地の望遠鏡の陰に入った主人公が、そこに地球から切り離された心地よさを感じる場面があるのだが、同じ場所についてCETIの研究者は宇宙中に耳をそばだてているかのような面白さを感じている。この部分の描写は凄く興味深かった。
結局実験はどうなるのか、バビロニア・ウェーブの発見者ランドール博士の仮説と博士の持ち込んだ謎の黒箱の正体は何か、というのは書くとネタバレなので省略。衝撃の真相とは言わないけれど、ビジョンは読んでいて楽しいです。日本ハードSFの必読の一冊。