- 作者: ロバート・チャールズウィルスン,Robert Charles Wilson,茂木健
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/10/31
- メディア: 文庫
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ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった…。周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼らは1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生の直後だった―地球の時間だけが1億分の1の速度になっていたのだ!
界面を作った存在を、人類は仮定体(仮定上での知性体)と名づけたが、正体は知れない。だが確かなのは―1億倍の速度で時間の流れる宇宙で太陽は巨星化し、数十年で地球は太陽面に飲み込まれてしまうこと。人類は策を講じた。界面を突破してロケットで人間を火星へ送り、1億倍の速度でテラフォーミングして、地球を救うための文明を育てるのだ。迫りくる最後の日を回避できるか。
裏表紙の紹介文からの引用は上記の通り。で、多分これ以上の内容を書くと、ネタバレになるという困った作品。
時系列的に話の流れを追っていくパートと、おそらくはその最後につながるであろう「西暦 4×10^9年」のパートとが交互に現れる。
主人公の医師タイラー、幼少期からの友人であり上述のテラフォーミングプロジェクトに深く関わるジェイスン、ジェイスンの双子の姉ダイアン、この3人がそれぞれ大事件に異なる関わり方をしていく。その描写の丁寧さがこの作品の特徴。
あとは、この「覆われる」という事件を嚆矢に、界面がちょっとした変化を見せる度に、動揺する社会の描写も興味深かった。自分が死ぬより前に太陽系が死ぬ、という現実をつきつけられた社会の中には、やはり自暴自棄的な行動に出るものが少なくない。
SF的なネタとしては、テラフォーミングを始めた人間が、その結果を見届けるというシーンは面白いと思った。億年単位で時間が流れるので、太陽系から見た恒星配置(星座)が全然違っているというシーンも絵的に面白い。
地球が外界から隔離されるというのは、いわゆる「動物園仮説」をすぐに連想するのだが、そちらにもきちんと言及があって、面白い考察が入ってます。
ちょっとだけネタバレになるが、著者のロバート・チャールズ・ウィルスンは、「スティーヴ・フィーバー」にも作品が掲載されている(「技術の結晶」。高価な義眼に物欲を刺激される男の話)。本「時間封鎖」も、しっかりポスト・ヒューマンものでした。