k-takahashi's blog

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西部戦線全史

詳解 西部戦線全史―死闘!ヒトラー対英米仏1919‐1945 (学研M文庫)

詳解 西部戦線全史―死闘!ヒトラー対英米仏1919‐1945 (学研M文庫)

 山崎雅弘氏による、第二次大戦の西部戦史解説本。文庫ですが600ページ以上とかなりボリュームがあります。
第1章がポーランド戦直前までで、ここまでが100ページ。2〜4章がポーランドからバトル・オブ・ブリテンまでで、約150ページ。5章がノルマンディー直前までで約70ページ。5,6,7,8章は、ノルマンディー、マーケットガーデン、バルジ、最終戦で、それぞれ60〜70ページ。
 この配分から分かるように、開戦までの経緯が重点的に解説されている一方で、地中海・北アフリカ関係はほとんどパスされています。大西洋上の戦いも、ごく軽く触れられているだけです。昨年山崎氏が出版した独ソ戦史が第一弾、本書が第二弾だとすると、少なくとも後2冊は必要ということなのでしょう。


 きれいな地図が多用されているので、戦闘の推移は分かりやすいです。さすがに基本的な流れは頭に入っているので、確認的な読み方にはなっていたのですが、それを差し引いても分かりやすいと思います。ただ、前作同様に地名のカタカナ表記にこだわりがあるようです。本来の発音に近いというのは分かるのですが、「アントウェルペン」となるとやはり違和感が大きく感じられました。でも、長期的にはこの表記になるのでしょうね。


 さて、本書には西部戦線概説という表の目的に対して、もう2つの意図があるようです。それは後書きにかかれている。その2つめは成功体験が組織に及ぼす悪影響の話で、おそらく執筆時にはこちらがより強く意識されていたのだと思う。しかし、1つめについては、

本書の第一章で詳しく述べました。英仏両国のヒトラーへの「宥和政策」は、第二次世界大戦史の文献では「その場しのぎの解決を意図した英首相チェンバレンの愚行」として、軽くあしらわれる傾向が強いようです。
 しかし、第一次世界大戦終結からミュンヘン会談に至るまでの、英仏両国の歩みをを丹念に振り返ってみると、その背景に存在したのは、あのような悲惨な戦争は二度とごめんだという、国民レベルの切実な「戦争回避の願い」であったことがわかります。
 平和を希求し、そのために最大限の努力をしたつもりが、結果的には新たな世界大戦の勃発を引き寄せる結果に終わったというのは、あまりにも悲しい歴史の皮肉ではあります。しかし、我々が生きるこの時代が、そうした「歴史の皮肉」と無関係であると言い切れるかどうか、私には明確な判断を下すことができません。(あとがき、より)

1936年のオリンピックが帯びていた政治的プロパガンダ臭を今年感じている人もいるようですが、私は第一章を読んでいて、凄く嫌なイメージを感じていました。ダルフールがスペインに、チベット人ユダヤ人に、見えてきました。台湾はハンガリーとなってしまうのでしょうか。
もちろん、杞憂に終わることを願ってはいますが。