k-takahashi's blog

個人雑記用

パララバ

パララバ―Parallel lovers (電撃文庫)

パララバ―Parallel lovers (電撃文庫)

 第15回電撃小説大賞金賞受賞作。というよりは、「タイム・リープ」のオマージュと聞いたので読んでみた。
出だしの掴みは良いです。

「夜……。夜は私、お通夜に行ってきたんだよ」
 私はそう言ってしまっていた。言ってしまっていた。電話の向こうで一哉が無言になる。気がつけば、背中や首筋、肘の内側まで、わたしはびっしょりと汗をかいていた。言ってはいけない言葉だったのだろう、けれど一度口にしてしまった以上、世間話を続けることはできなかった。
「一哉の……お通夜だよ。一哉、あなたは死んでしまったんだよ」
一哉は黙ったまま、息をする音さえしない。私はたまらなくなって声を上げた。
「ねぇ一哉、今どこにいるの!? どこから電話しているの!?」
「俺は……家にいるよ」
掠れた声だった。とても遠くから聞こえる声だった。
「今日はさ、俺も通夜に出てた」
私の心臓はどくんと音を立てた。すごく、嫌な予感がした。
「誰のか、わかるか。お前のだよ。綾、死んだのはお前なんだ」
八月は終わったはずなのに、蝉の声が聞こえていた。(p.16)

パララバの「パラ」は、「パラレルワールド」の「パラ」。お互い相手が死んでしまったパラレルワールドで、なぜか電話だけが通じるという設定。


 二人の死因は、当初断定されていたものとは異なり、その真相を追っていくわけです。パラレルワールドの設定を使っての調査のアイディアも面白いし、ストーリーもよく練られています。クライマックスの校舎内でのチェイスシーンも、パラレルワールドという設定と、二人のキャラ設定と、ストーリーが巧妙に絡まった印象的なシーンになっています。
 あと、二人を繋ぐラメル先輩というの協力者が登場します。ありがちと言えばありがちなキャラなんですが、サポート役としての情報提供に始まり、結末に至るまでうまく活用されていました。


 タイム・リープは時間旅行もので、行動する毎に少しずつ世界が変化していきます。だから最後にハッピーエンドにたどり着けるわけですが、本作はパラレルワールドものですので、死んだ人を生き返らせる仕組みはなさそうに見えます。真相は多分途中で分かると思うのですが、二人の関係の落としどころは最後まで予測ができませんでした。


 もうちょっと二人の心情描写をやってもいいかなとも思いましたが、事件を追うのに必死な感じが良く出ているので、こういうのもありかと思いました。色々欠点もありますが、これはこれできちんと完成した作品なんでしょう。


 あと、本筋と無関係ですが、爆笑したシーンを引用。

そのとき、ごぉぉ〜〜んと、寺の鐘の音が周囲に響いた。
「うわっ、なんだ今の!」
やがて聞こえ出すのはお経。最初は小さく、徐々に大きく、二重三重に重なる僧侶の低い声が校舎中に響き渡る。私は天井近くのスピーカーを見上げた。
「これ? 放送委員会だよ。生徒は早く帰れ放送」
答え終わるより早く、貞子もかくやと思われるおどろおどろしい声がスピーカーから流れ出した。
「閉門時間に……なりました。うっ…まだ……校舎内に……いる生徒……かゆ…うま……」
「こわっ。おいおいおいおい、ウチはホタルの光だったぞ! お前んとこの放送委員おかしいだろ!」
「でも、この方がみんな早く帰るからって」
「そら帰るわ!」
ぶつぶつ言っているうちに、読経は最高潮の盛り上がりを見せ、始まったときと同じようにゆっくりと消えていった(pp.193-194)