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クラウドソーシング

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)

従来、アウトソーシングという形で企業などが、外部に専門性の高い業務を外注するというトレンドがあった。しかし、昨今では、インターネットの普及により社外の「不特定多数」の人にそのような業務を外注するというケースが増えている。それらを総称し、クラウドソーシングと呼ばれている。知的生産力やコンテンツなどを、多数の人々から調達・集約し、事業成果を得ることを目的にしている。
たとえば、P&Gは商品開発に、ボーイングは機体組み立てにそのような手法を取り入れている

クラウドソーシング - Wikipedia

 本書は、そのクラウドソーシングの誕生の経緯、現状、未来予想、を順々に説明してくれる。著者自らがクラウドソーシングの実験(アサインメント・ゼロ)に関わった体験なども書かれており、分かりやすい。


 クラウドソーシング自体に価値があることは、そのもっとも顕著な成功例であるGoogle Search を見れば明らか。ただし、なんでもかんでもクラウドソーシングすればよいというものではない、ということも本書は説明している。本書の読みどころはそのあたりで、著者は、この「集団知性」の分類とそのよってたつ条件について分析している。


 ハウによれば、集団知性が生きるための条件は、

  • 多様性を保つ仕組みがあること。群衆の構成員が充分に広い範囲から集められていること
  • 問題が本当に厄介なものであること
  • 群衆が問題解決に足るなんらかの資質を持っていること
  • 貢献をまとめ、整理するメソッドがあること

だそうだ。GoogleSearchは確かにこれらの条件を満たしている。
1番目の条件は、クラウドが専門家に優る点は数の多さそのものではなく、その数がアクセスできる情報の多さであることに依存する。だとすればいくら人数が多くても多様性がなくては情報は増えず、クラウドの強みは生まれないのである。
2番目の条件は、専門家が簡単に解ける問題ならクラウドソーシングなどするよりも専門家に聞く方が早くて確実だということを意味している。たいていの場合専門家は効率的なのである。
3番目の条件は、クラウドソーシングを成り立たせるにはそれなりの社会基盤が必要なことを示す。大学で化学を学んだが、別の仕事を選んだ人が手隙時間に取り組むといったようなことがあること、あるいは誰もが動画を創る手段を持っているような社会であること。そういった基盤がなくてはクラウドは力を出せないのである。
4番目の条件をICTの発達が満たしたことがクラウドソーシングの興隆に繋がっていることも言うまでもない。


 また、いわゆる「予測市場」の使い方についても、面白い紹介をしている。

マーケットクラシーは決断を下す際に、群衆ではなく、もっと小規模な成績上位者の群衆を基盤にしている。「専門家からなる群衆のようなものだ」とページは言う。(p.241)

梅田望夫氏が「三層構造」という言葉で表していたのと同じですね。日本ではあまりまだ上手く機能していませんが、予測市場モデルならうまくいくのかもしれない。


 多様性の維持は難しい問題である。膨大なUGCの中から価値あるものを引き上げるフィルタリングは、クラウドソーシング向けのタスクだが、参加者の価値観がまったくバラバラでは意味がない。一方で、皆が同じ価値観ではクラウドが機能しない。この辺のバランスとりをうまく考えることもクラウドソーシングにとって重要なこととなる。


 また「ことを単純にし、小さく分ける」ことはとても重要である。これが適切にできなければその問題はクラウドソーシングにはなじまない。「こと」が大きすぎると、ちょっとした手隙時間では貢献ができない。それでは参加者が少なくなってしまい、クラウドの多様性が発揮できなくなってしまうのである。ということで、上述の原則に立ち戻ることになる。


 少々、突っ走り気味のところもありますが、「クラウドソーシングを有効に使うための条件」という視点で読めば、得るところは多い本だと思います。というか、Web的にどうこうで失敗した例が世の中にはたくさんありますが、その大半が上述の「条件」を満たしていないことがよく分かりました。