スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
- 作者: グレッグ・イーガン,ジェフリー・A・ランディス,メアリ・スーン・リー,ロバート・J・ソウヤー,キャスリン・アン・グーナン,デイヴィッド・マルセク,デイヴィッド・ブリン,ブライアン・W・オールディス,ロバート・チャールズ・ウィルスン,マイクル・G・コーニイ,イアン・マクドナルド,チャールズ・ストロス,山岸真,小阪淳,金子浩,古沢嘉通,佐田千織,内田昌之,小野田和子,中原尚哉,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/11/25
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 73回
- この商品を含むブログ (38件) を見る
基本的には、現在の人間をとりまく様々な制約を取り払ったらどうなるかという思考実験で、それだけなら神でも悪魔でも持ち出せばよいのだが、科学という補助線はそれらよりももう少し先を、もう少し解像度高く見せてくれる。そこでは今は想像も付かないものがあったり、今当然と思うようなものが無くなっていたりする。そんな短編集。
表題作のスティーヴ・フィーヴァーは、ナノマシンに感染してどうしてもアトランタに行きたいという衝動を抑えきれなくなった少年が実際にアトランタで体験する奇妙な「協力」を描いている。一種の暴走AIなのだが、発想がギークっぽくてなんか憎めない。ネズミがちょろちょろとするシーンとか面白い。(これ以上はネタバレになるかな。)
他の作品とかでも、印象的な描写やシーンが多い。バスいっぱいに詰め込まれた遠隔操作ロボット、平原を爆走する機関車、牧場の隅に立つ木、ゴッホのひまわり、結婚式の最中に「僕は花婿なんだ」、玄関先の石、会話するホログラフ。
知覚にせよ思考にせよ、それらが拡大すればデータ量は爆発する。データ量の爆発と、反復や自己言及やコピーなどとは相性が良く、このモチーフは繰り返し登場する。反復ができる一方では反復できないこともあり、そういった対比も何度も登場する。そういった反復が反復して登場しており、そのせいか、一冊の長編を読んだような読後感もある。同じ作品を並び替えるだけでそういう編み方もできたのかもしれない。「有意水準の石」が最後だとその印象が強まったかもしれないが、山岸さんが選んだのはオールディスの「見せかけの生命」だった。
でも、このオールディスの小品をどうしても収録したかったという気持ちもよく分かる。ポストサイバーパンクならぬポストサイバーパンク短編集になってしまったという見方も合わせて、切り取りの妙というのも楽しめる短編集になっていると思う。