- 作者: 井上明人
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/01/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 8人 クリック: 242回
- この商品を含むブログ (33件) を見る
なお、
行動を支えるツールがゲーミフィケーション(p.37)
ゲーミフィケーションとは、外発的動機付けと乃境界線的な要素(報酬)を求めるうちに、内発的動機付けを駆動させるようなメカニズム(p.60)
と定義している。
「物語」を重視しているのも差異点の一つで、「物語をソーシャルに載せることでスケールさせて、ゲーミフィケーションを有効に機能させる」といった感じになっている。
具体例の解説から、具体的なゲーミフィケーションの開発例に話が進んでおり、イメージしやすい。少なくとも、「ずれた」「いけてない」ゲーミフィケーションもどきを修正するためには非常に適切な書き方だと思う。
逆にゲームデザインとかの本を読んでいる人には、基本的に今さらな話。でも、人に説明するためのアンチョコとして非常に優良です。
背景と課題
著者の井上氏は、「今ゲーミフィケーションが有効に活用できる時代になった」として、
- 測るテクノロー時の進歩(入力が簡単・正確になった)
- フィードバックの高速化(クラウドでの高速処理、スマホなどへの即時反応)
- ゲームという方法論になじみのある人が多数派になった。併せてツールが充実し、作るのも簡単になったし、作れる人も増えた。
ということをあげている。
一方で、ゲーミフィケーションが誤用されたり誤解されたりすることを強く危惧していることも書いている。いささかオフトピ気味な「ゲーム脳」問題を解説しているのも、シリアスゲームにやや過敏に反応しているのも、誤解されることを怖れていることの表れだろう。
さらに、氏は「誤解」とは別の「誤用」を懸念して、3つの課題をあげている。(p.201)
- 設計者の偏り:そのゲームは誰にとって楽しいゲームなのか。「成果主義」というゲーミフィケーション(もどき)が大失敗に終わった会社は多い。
- プライバシー:パブリックとプライベートの境界。ライフログと同じ課題を抱えている。
- ズル:普通のゲームでもハメ的なものがあるが、似たようなことはゲーミフィケーションでも起こる。(というか、ゲームの方法論を持ち込めば、ゲームの問題も持ち込むことになるのは当然。)
そして、更に4つの争点として、
- やりがい搾取
- 柔軟性の阻害
- 既存の価値システムとの衝突
- 利用目的
を書いている。ちょっとこの辺はまだ読んでいても荒っぽさを強く感じる部分で、もう少し緻密に進めることができると思う。が、すでに研究者はここまで考えているのだよということを示すのは、本書を「ビジネス書」に位置づけると決めた時点で「誤解をできるだけ早めに抑える」ため井上氏が心に決めていたことなんだと思う。
最後の部分では、ゲームを強要されるのではなく、自分のしたいゲームが楽しめる社会がより望ましいということも書いている。
マクゴニガルの本にも書かれているが、強制されるゲームほど苦痛なものはないのだ。
更に言えば、自分が面白いと思い込まされて「悪いゲーム」をプレイしてしまう危険性もある。ネトゲの「ゲーム廃人」問題やギャンブル依存の問題もその一つだが、もうちょっとゲームシステムに関わる点からも課題がある。
例えば、ゲームのスコアリングシステムを変えたり、ボーナスアイテムの出方を変えたりすることでゲームのプレイをある程度誘導することができることは知られている。このテクニックがゲーミフィケーションに持ち込まれたらどうなるだろうか。あるいは、賭け麻雀の基本テクニックの一つとして、カモを一人決めて残りの三人でカモを叩く、というのがある。こういった問題は、数百万人が遊ぶソーシャルゲームではすぐに発覚するだろうが、ビジネス応用やエンタープライズ適用などのように比較的参加者が少ない場合に危ないと思う。あるいは数が多くても修正に時間がかかることはありえる。
ただ、そういうところも含めて、井上氏の今後の研究と啓蒙には期待できる。つまり、将来は明るい。