k-takahashi's blog

個人雑記用

都市と都市

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

地理的にほぼ同じ位置を占めるにもかかわらず、別々の国と扱われているベジェルとウル・コーマという二つの都市国家。その境界を侵害する行為は「ブリーチ」と呼ばれ、侵害者はこのブリーチ行為を取り締まる特権的な機関「ブリーチ」によっていずこへともなく連れ去られてしまう。この「ブリーチ」が厳格で、通りの向こう側が別の都市の領土であるならば、そこで起きていることを見ることすら「ブリーチ」とみなされる。


そんな無茶な設定の都市で殺人事件が起こる。主人公はこの事件を担当するウル・コーマのボルル警部補。死体が見つかったのはウル・コーマだったからだが、殺人が行われたはベジェルではないかとなってくる辺りから話がややこしくなってくる。両国家を行き来するには正しく国境を越えなければならず、そうしなければブリーチ行為だ。ブリーチ行為はあったのか、なかったのか。これにより捜査は全く別の方法をとらなければならなくなる。警察小説には良くあるシーンだけれど、「それは我々が扱うことはできない」というやつだ(ブリーチを取り締まるのは警察ではないから)。


見えているのに自覚できないというトリックはミステリーではポー以来の古典的なもの。これを「見ていたことにしてはならない」と読み直し、さらに警察小説とすることで規定を守らなければならないという縛りを強くする。この縛りの中で進むミステリーとして非常に面白い。


そして、この異常な設定の背景は何かというのを、この設定に逆らう組織の活動を通して解明していくSF的な部分も面白い。異常な設定を犯罪捜査という視点を通してリアルに描写した後の話になるので、不思議なリアリティがある。現実を虚構化すると捉えるなら、半分くらいはホラーなのかもしれない。


ラストはうまくたたまれていて、なにやらアメリカのTVシリーズのプレミア第1話的。この小説、うまく映像化したら、さぞ面白いだろうなあ。