k-takahashi's blog

個人雑記用

防衛駐在官という任務 〜具体的に何をしているのか?

一応、防衛省にもQAがあって、

防衛駐在官とは、防衛省から外務省に出向した自衛官で、外務事務官として諸外国にある日本大使館などの在外公館に駐在し防衛に関する事務に従事する者のことをいいます。自衛官の制服を着てその階級を呼称して任務にあたります。

防衛省・自衛隊の『ここが知りたい!』

とか解説があるが、さすがにこれでピンと来る人は少ないだろう。


そこで、本書。1990年から3年間にわたり韓国で防衛駐在官であった福山隆氏が、

こんな激動期に勤務し、見聞した記録を残すことは、さまざまな意味で、我が国の情報態勢強化に資するうえで、あるいは、歴史的な記録として、意義のあることではないかと思うに至った。(あとがき、より)

という意図で、「多くの人に知ってもらい、理解してもらうために」書いた本である。


もちろん、本当に秘密にしなくてはならないことは書いていない(はずだ)し、教科書的な構成になっていないので、全体としては散漫な印象も受ける。教科書的に読むなら小谷賢氏の本*1の方が良いと思う。
とは言え、肉声というのはやはり重要。戦争を理解するのに、歴史や戦略の視点はもちろん大事だが、現場の将兵の手記というのも無視はできない。インテリジェンスも同じ。本書は、その両端をカバーしている点がポイントだと思う。


序章は、まず北朝鮮情勢の分析。『著者は北朝鮮が核・ミサイルの開発を中止することはあり得ないとみている」(p.22)とあり、1年半たった今でもこの分析は妥当なものとなっている。
他に興味深い表現として『北朝鮮が中国に呑み込まれ、事実上の第二のチベット化されることを阻止』(p.16)というのがあった。


他にもちょっとしたネタとかが色々書かれていて面白い。

  • ホワイト工作員とブラック工作員(p.66)
  • 任国は、韓国かエジプトのどちらかを選んでもらいたい、と言われて頭に浮かんだのが「ピラミッドと焼肉・キムチ」。(p.86)
  • 研修中には、日本文化の研修もあった(p.94)
  • 初めは、あらゆる可能性を排除せずたくさんのシナリオを作り、最終的には三つくらいに絞り込む。(p.99)
  • 調査項目の中に『韓国による大量破壊兵器開発は行われているか?』というのもあった。(p.109)
  • 着任直後に大使から「防衛庁からのお客さんが多すぎる」とクレームを受けたが、実は、当時までの韓国では軍の実権が強く、自衛隊高官が訪問したときを契機に交流を図っていたという実態があった。(p.115)
  • 赴任当時「邦人保護計画」を検討するだけで大変だった。(p.122)
  • 韓国将校はゴルフ好き。盗聴の心配の無い空間で情報交換をしていた。(p.128) ただ、返礼しようにも訪日時に案内に使えるゴルフ場がなかった。(p.129)
  • 湾岸戦争後の掃海艇派遣の際、アラブ首長国連邦との地位協定のお手本になったのは、韓国。(p.143)


あとは、筆者自身が巻き込まれた事件として、フジテレビの篠原昌人支局長と韓国国防部の情報将校高永竽海軍少佐とがスパイ容疑で逮捕された件についても触れられている(1993年6月)。
当時、韓国の新聞には筆者が黒幕であるかのごとく報道されたが、実際には、筆者は後日、韓国から叙勲されており、少なくとも韓国政府は筆者の関与はないと判断していることになる。
で、この事件について筆者は、詳細は伏せつつも「KCIAが当時の新大統領と取引して、軍部の権力を弱めようとしていた、韓国軍vsKCIA・金泳三の権力闘争だ」という見解を披露している。


でも、一番驚いたのは以下の部分。

駐韓国防衛駐在官はあまりにも忙しすぎる。私は少なく見ても三年間で一千人以上の公的・準公的な韓国訪問者・旅行者のアテンドをこなした。これに加え、大使館の公式行事で拘束された。例えば総理や外務大臣訪韓などでは、「配車係」が防衛駐在官の乗るまであった。かんこくではたった二人の防衛駐在官でこれらの業務をやるわけである。これがなければもっと情報活動に専念できるのに、とおもわずにはいられなかった。(p.229)

これはいくらなんでも多すぎで、本務に差し支えると思う。

*1:

インテリジェンス―国家・組織は情報をいかに扱うべきか (ちくま学芸文庫)

インテリジェンス―国家・組織は情報をいかに扱うべきか (ちくま学芸文庫)