- 作者: 大森望,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/06/28
- メディア: 文庫
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大森、日下の両編者が挙げてきた推薦作品を合計すると本書の倍のページ数になる。そこから泣く泣く削って、このページ数に収めたのである。つまり、まったく違う作品で、もう一冊の傑作選が編めるだけの収穫があったということだ(序文、より)
という嬉しい悲鳴を上げながら組んだ短編集。
『星間野球』(宮内悠介)は、軌道ステーションで野球盤を本気で遊ぶという話。反則すれすれ(というか、反則だよなあというネタだらけ)で熱く燃える男達。笑えます。
『氷波』(上田早夕里)は、土星の輪(C環では、波打ち現象が観測されている)でサーフィンをするというとんでもないネタから始まり、最後はAIテーマへ。
「はやぶさ」のオマージュでもある、というか、「はやぶさ」ジャンルだと思う。
『ウェイプスウィード』(瀬尾つかさ)は、上田早夕里ばりの環境進化ネタ海洋SF。タイトルのウィプスウィードは、ミドリムシの変異体であるエルグレナと菌類とが共生して生まれた謎の巨大生物。SFで巨大群体生物となると、当然知性があるのではないかという話に繋がるのだが、もう一捻りしていた。
長編にすれば、『キリンヤガ』や『天使墜落』みたいな展開も書き込めるかもしれない。そういう意味では長編化に期待。
あと、『エクリプス・フェイズ』っぽさもあります。
『Wonderful World』(瀬名秀明)は、ブラッドベリの「メタファー」を人間のものの考え方として捉えつつ、未来を操作する技術が生まれる瞬間を扱った社会SF。部分は面白いのだけれど、どうも全体像が腑に落ちてこない。
『銀河風帆走』(宮西建礼)は、宇宙ヨットの話。但し、タイトル通りで太陽風ではなく銀河風を受けて、銀河間を帆走しようというスケール。銀河核の巨大ブラックホールから吹き出す荷電粒子の流れを磁気セイルで受け止めるという設定。そして、生命が存在できなくなる前に銀河系から逃げだそうというのだ。
このベタな設定をきちんと短編にまとめているところが、凄いと言えば凄い。SF短編賞なんだから、これで良いのだと言われれば、うなずくしかないよなあ。
評者も書いていたけれど、このどちらかというと古色蒼然とすら言える作品の著者が大学生というところも面白い。