k-takahashi's blog

個人雑記用

NOVA 10

凄いなあ、本当に10冊出たんだ、ということで第一期は本書で完結だそうです。

『NOVA休報』(理山貞二)

(架空の)『NOVA10』の編集後記というスタイルで(大森の編集後記の文体模写を試みつつ)、その本に収録できなかった(実在の新人作家達の名前を使った)架空の投稿作を紹介。最後に、じつはそれが第六期≪NOVA≫の10冊目(通算五十七巻目)の編集後記で、筆者は五代目の大森望だった、というベタなオチがつく。(p.638)

という作品は、残念ながら収録してくれなかったそうです。SF大会で出てないかなあ。

妄想少女』(菅浩江

厨二病患者が実は格好良い、と言えば『シュタインズ・ゲート』だけれど、本作も格好良い厨二病患者が主人公。しかも、いい年したおばさんだったりする。

『味噌樽の中のカブト虫』(北野勇作)、『ライフ・オブザリビングデッド』(片瀬二郎)

会社員が主人公の作品2つ。前者の味噌は、脳味噌のこと。取り出すのに金がかかるのでという設定。後者はゾンビ化した会社員がラッシュを物ともせず通勤する話。
笑えないブラックさが面白い。

『かみ☆ふぁみ! ―彼女の家族が「お前なんぞにうちの子はやらん」と頑なな件』(伴名練)

世界をシミュレートする能力を持った一族の娘に恋した男の子が頑張るラブコメ。文字通り「神」にも近い能力の持ち主が登場する。
きちんとSF設定として筋を通しているのは、さすがNOVA掲載作だけのことはある。
読後感は『紫色のクオリア』に似た感じ。

『百合君と百合ちゃん』(森奈津子

爆笑の一作。
28才までの結婚が義務づけられた社会。それまでに結婚していないと、少子化対策省子作り推進局によって無理矢理配偶者が決められてしまう。
真性レズビアンの主人公にあてがわれたのが、オリジナルの百合物やアニメの百合パロディなどの同人誌を作っているデブオタ。という設定。
で、お役人の頭が硬いんだか柔らかいんだかよく分からないけど、さらに酷い方向になっていくという風刺SF。

『(Atlas)3』(円城塔

映画などで、一枚一枚の絵、一つ一つのシーンの中に矛盾はなくても、複数の絵や描写を繋げると矛盾が起きることがある。あれが現実世界の中で起こっているという設定。
本作の場合は、誰かの主観であったり、主観視点で撮られている写真であったりする。それをつきあわせると矛盾が発生する。主人公は情報をつなぎ合わせてその「矛盾」を包囲する仕事をしているが、一方、その矛盾の中に「なにか」が潜んでいて、その「なにか」が襲ってくるという、いかにも円城塔っぽい話。
なんとなく、イーガンの『暗黒整数』を思い出しながら読んでいたが、もう少しホラーっぽい。
でも、円城塔を期待すると、期待に応えてくれる作品です。

『ミシェル』(瀬名秀明

『虚無回廊』の公式スピンオフ作品。
150ページ以上あるのだが、それでもちょっと駆け足感ががあり、普通に長編小説に仕上げた方が良かったのじゃないかと思った。
ただ、昨年の短編『Wonderful World』が『極光星群*1に掲載され、さらに『日本SF短編 50 II*2に『ゴルディアスの結び目』が載るのを知っていて、SFファンがこの辺を読むのを見越したうえで、NOVAシリーズの最後にこれを入れてきた瀬名秀明の計画的犯行なのだろう。
私は、相変わらず、「メタファー」のあたりが腑に落ちないままだけれど。
しかし、瀬名作品って、いつの間にやらテロリストの出現頻度が随分高くなったきたなあ。