k-takahashi's blog

個人雑記用

コンテナ物語 〜コンテナシステムの本のはずだが

コンテナ物語

コンテナ物語

20世紀最大の発明の一つと言われているのが「コンテナ」。もっと正確に言えば「コンテナシステム」。コンテナの海上輸送が始まったのは、実はほんの60年前の1956年。そう、第二次大戦の時にはまだコンテナはなかったのだ。(コンテナが本格的に軍事輸送に用いられたのはベトナム戦争の途中から。)
ちなみに、原題は" The BOX"。副題が "How shipping Container made the World Smaller and the World Economy Bigger"(コンテナ輸送は、どのように世界を小さくし、世界経済を大きくしたか)。


今、コンテナの有用性を疑う人はいないだろう。そして、コンテナの実用化がごく最近だと知ったら「ああ、頑丈なコンテナが作れなかったからなんだね」と思うだろう。
でも違う。
もちろん、軽くて頑丈なコンテナを大量に作れる基盤がなければコンテナは機能しない。でも、コンテナが普及し、世界を変えるために必要だったのは「コンテナを使った輸送システムの確立だった。
それを、丹念に記述したノンフィクション。


とにかく読んでいて「いったい、私は何の本を読んでいるんだっけ?」と何度も思った。これはウェブの話か? amazonの話か? という描写ばかりなのである。「コモディティ化」とか「高速道路」とか出てくる。
そして、多大な紆余曲折を経て部分的な改善が積み重なり、システム全体がそのパワーを発揮したとき、コンテナシステムは世界を変える力を持つに到る。この辺は、ネットを連想させる。


現在のコンテナシステムの確立に多大な貢献をし、本書でも主役級の扱いなのがマルコム・マクリーンという人物。トラック会社を設立し成功したこの男が、

海運業とは船を運航する産業ではなく貨物を運ぶ産業だと見抜いた
(No.1166)

ことが重要な転換点となった。彼は、より効率的に貨物を運ぶためには、ということを考えていたのである。
最初に問題になったのは、港での荷役コストの高さだった。コンテナというのはもともとその対策として考え出されたもので、その意味ではマルコムはコンテナの発明者ではない。だが、彼は効率的な貨物輸送システムを追求しつづける。コンテナを効率的に運ぶために、倉庫を変え、クレーンを変え、港を変え、船を変え、トラックを変え、鉄道を変え、会社を変え、業界を変え、街を変えてしまう。そして行き着いたのが副題の「世界を変え」である。(彼の強引さは、amazonのベゾスを連想させる。)


恐ろしいのは、ほとんどのプレイヤー(個人から国まで)があるときは成功するものの、多くの失敗を積み重ねていること。マルコムですら情勢の変化を見誤り会社を潰してしまったりしている。まさに死屍累々。
それでも、荷物を規格化された箱(コンテナ)に入れる。そして、そのコンテナを最大限効率的に運ぶようにシステムを作る、というビジョンだけは一貫して成功し続けた。(そして、一貫して間違い続けたのが、規制当局と組合。)


コンテナがあまりに効率的であるため、このコンテナシステムに乗れば大成功(顕著な例がシンガポール)の近道になる。日本の高度成長もトヨタカンバン方式もコンテナ無しではここまでの成功はなかった。
一方、このシステムに乗れないと大変なハンディを負うことになる。こんな記述がある

アフリカの国々は貧弱な港しか持たず、コンテナ船も滅多に立ち寄らない。となると、世界最低水準の人件費も製造業にとって魅力にはならなかった。
(No.5234)

海岸でなければならないという単純な話ではない。コンテナシステム自体は距離の制約を撤廃する方向に機能するので、物理的な距離ではなく「効率的なコンテナシステム」に入れるかどうかが大事となる。そのシステムを作るにはインフラ投資が必要となる。
そして、これもウェブに似たところがあるけれど、ある程度大きな港でないとコンテナシステムに乗れないので、栄える港と寂れる港という二極化が進んでしまうのだ。だからインフラ投資も大規模なものが必要となる。コンテナ化しなくてもよいもの(天然資源や一部の農産物)を除くと、徐々に発展というパターンが使えないのだ。
しかし、いきなりそんな大規模投資は難しい。ましてや社会が安定していない国となればなおさらだ。


『銃・病原菌・鉄』*1や、『まおゆう』*2が好きな人なら、面白く読めると思う。お薦め。