k-takahashi's blog

個人雑記用

AI vs 教科書が読めない子どもたち

東大ロボ(東大の入試問題をコンピュータに解かせるプロジェクト)の新井紀子先生の著書。かなり話題になったので、内容紹介とかはあちこちにあると思う。
前半がAIの現状、後半が日本人の現状、という感じで、実のところ面白いのは後半。
AIの分析の部分は、「今の技術の延長に」とか「数年以内には」とか限定を付けた上で今すぐ超人的なAIはできませんという話が大半で、そういうのはまあそうだろうというところ。AIの今後の進展については、「クラークの第一法則」だよね、ですむと思う。(今投資する優先度はどうなの、という視点からは、もちろん無駄金は無駄になる。個人的には、バブルにはある程度乗った方が後々役に立つとは思っているが)


実は、2章で「それはヤバいのでは」と一番強く思ったのは以下の部分。

東ロボプロジェクトを始めたときに、私はまっさきに「第五」の資料を探しました。どこまでができて、どこで判断を誤り、どのように失敗したか、知りたかったからです。しかし、ほとんど資料は見つかりませんでした。「こんな夢を実現したい」という景気の良い話や、「実は第五は成功した」と強弁する報告書は見つかります。ですが、何故失敗したのか、どう失敗したのかという肝心な報告書が存在しないのです。
(No.1161)

新井先生に都合の良い資料が無かっただけかもしれないけれど、資料が少ないというのはそうだよな、と思う。当時飛び交ったはずのメールを、せめてメーリングリストの分だけでもアーカイブしておけば参考になるはずなのにね。


第3章は、AIの評価や学習に使った技術を使って、人間の方を評価してみたという話。
で、これがあちこちで語られているように、機械未満の読解力しか持たない人が多発したということ。
AIを評価するために、AIが苦手なものを整理した結果を使っている。「AIは真の理解はできていない」ということを示す道具で人間を評価したら、多くの人間も理解出来ていないという結果が出たというオチ。

私は、それまで誰も疑問を持っていなかった「誰もが教科書の記述は理解できるはず」という前提に疑問を持ったのです。
(No.2328)


不謹慎と言われるかもしれないが、どういう仮説があってどういう評価をしたらどういう結果が出たという調査の進め方の部分が、ある意味推理小説的で面白かった。
この調査に現場側が非常に協力的だったというところも興味深い。現場は薄々と感じ取っていたと言う意味で、そこにスムーズに協力してもらう目的で「東大ロボ」を作ったというなら、なかなかの策士である。素晴らしい。


ちょっとビッグマウス気味なのと、上から目線口調なのとが気になるといえばなるけれど、それ以上に面白いし、内容的にも概ね妥当なことを書いていると思う。お勧め。