k-takahashi's blog

個人雑記用

アメリカ海兵隊

 

 『失敗の本質』や『知識創造企業』で知られる野中郁次郎先生が、25年前に書いた本。『失敗の本質』でガダルカナル戦を扱ったときにその相手になっていたのが海兵隊だったのがきっかけで色々と調べ始めたのだそうだ。

全6章のうち5章までは海兵隊の歴史で、半分ほどは日米戦関係になる。「おまえら、要らないんじゃ?」と言われ続けたのが海兵隊の歴史と言えるのだが、水陸両用戦の必要性を見つけ出し、理論をつくり、実践計画をつくり、実戦の場でそれを磨き続けるということを続けた歴史であって、それが如実に表れたのが日米戦。組織や方法論の革新どころか改善すらあやうかった旧日本軍との対比というのは、当然野中先生の頭の中心にありつづけたのだろう。実戦をやっては改善し、戦時中でも不適切と思われる人物はすぐに配置換えをする。現場の柔軟な人事についても(任務に必要ならその場で一旦昇進させ指揮を執らせ、終わったら元に戻す。正式な昇進は別途、という感じ)触れられている。

 

最後の第6章「自己革新組織」というのが野中先生が本書を著したポイントだろう。組織のミッションを常に問い続け、どこで何をするかを見つめ直し、機能を適切に配置し直し、中心的機能(コンピタンス)に各機能を関連付ける。
環境適応理論によれば、組織には文化と統合のバランスが必要となる。組織内の部門は目標や時間感覚、組織構造の柔剛の違いなどで分化していく。この分化した組織を統合する方法は大きく2つあり、官僚制的な方法とタスクフォース的な方法とであり、状況が安定しているか動的かでどちらかが選ばれることが多い。しかし、どちらを選んでも理論的に分化と統合は両立しない。そこで、「動く」。動くことで見えてくる状況を把握し、適切な方を選んでいく、バランスを取るのではなく必要な方を都度選んで推進していくことで、組織をスパイラルに革新していく。
そうしたことの実例が海兵隊に見て取れる、ということ。

 

25年前の段階で、すでにオスプレイの位置づけをきちんと把握されているあたりは、さすがだと思う。(オスプレイがなぜ必要なのかをきちんと押さえている)

 

本書は古書店経由で入手したのだが、本書は献本が還流したもののようで、なんと野中先生サイン入り。古本だと時々ある話だけど。

 

 

進化の本質とは、新しい情報や知識の学習である。(p.196)

(中略)

新しい知の創造なくして組織の自己革新はあり得ないのである。
組織的な知識創造の基本は、概念の創造とその結晶化であるが、組織の変革に繋がるような大きな知識を生み出すためには一つの概念が次から次へと関連概念を生み出すよう豊穣な基本概念の創造が重要である。(p.196)

(中略)

海兵隊の歴史の中でそのような概念の最初が「水陸両用作戦」である。水陸両用作戦という概念は、その上位概念に「海をもって陸をたたく」というオレンジ・プランがあり、下位概念として艦隊海兵隊、艦砲射撃、近接航空支援、上陸用艦艇などの概念を生み出した。

(中略)

概念は結晶化されるプロセスで、具体的な技術、モノ、サービス、システムなどに具現化(外在的結晶化)されると同時に、その具現化に参画した人々に体化(内在的結晶化)されるのである。このような、「思いを言葉に、言葉を形に」のプロセスのなかで、知識の獲得・創造・活用・普及・蓄積が一斉に起こり、組織の知識体系が変革されていくのである(p.197)