k-takahashi's blog

個人雑記用

現代ロシアの軍事戦略

 

ウクライナ戦争は現在進行形だが、「なんでロシアはあんなことをしたんだ?」というのは多くの人が疑問に感じているところ。

そのロシアはどんな軍事戦略を取っているのかを分析・紹介している一冊。著者は小泉悠先生。発行はちょうど1年前なのでウクライナ危機が顕在化する前の段階での分析ということになる。

 

当然私の関心もそこで、前回(2014年)のクリミアであれだけうまくやったのに、なんで今回はああなんだ? 何が違うんだろうというのがある。もちろん最大の違いはウクライナ側の体制とそれに応えての各国の支援にあるが、それを差し引いてもロシアのやり方に疑問を感じている人は多い。

 

内容は、小泉先生が軍事研究等で発表してきた内容を整理したもので、新説披露というようなものではないが、それでもきちんとまとまっているのは非常に勉強になる。

 

ということで、以下私の理解。

ロシアのハイブリッド戦争というのは、戦争の特徴と性質という分類で言えば特徴の側の話になる。ロシアの大国意識や妄想、軍事力で自分の都合の良い結果を得るという思想は変わっていない。

但し、軍事力の制約はあり、現時点で正面切ってNATOや中国とやりあうと不利だし、海外への直接軍事力展開も規模は限られる。それは分かっているので、そうせずに済むようにしたのが、国籍不明のロシア軍によるクリミア侵略であり、PMCや空軍によりアサド政権支援であった。どちらも大成功を収める。ここでは、ロシアの準軍事組織(軍以外の組織としての軍事組織)が有効に活用された。グレーゾーンを有効活用したわけで、ここが西側からみた場合の「ハイブリッド」な手法ということになる。

一方、クリミア侵略の初期はハイブリッドな手法であったが、その後のクリミアやドンバスでの勢力確保・拡大には従来戦力が有効に活用された。ロシアは戦争をハイブリッドな性質のものに変えたのではなく、ハイブリッドな手法を含むように拡張してきたのだ。

(この理解だと、ロシアが戦術核を使う可能性は相応に高いことになる)

 

という理解の上で今回のウクライナ戦争のロシアの動きはというと、グレーゾーンでおそらくある程度の成果はあげていた(ウクライナ国内への浸透工作はかなり進んでいた)。だが、西側の妨害によりそこから先が上手く進まない。ウクライナに対してなら直接軍事力を投射することが可能だし、シリアの成功で分かる通り西側は口先以上のことはなにもしない。なので、直接軍事力の行使で「成果(ウクライナの属国化)」を「確定」させようとした、ということになるのかなあ、というのが私の理解。

ウクライナ戦争でのロシア軍の作戦・戦術が稚拙に見えるのは、ウクライナ軍の頑張りと西側の支援とロシア軍の油断・訓練不足の相乗効果。

 

まあ、この辺はおいおい明らかになるだろうけど、そういった考察の基盤を与えてくれる一冊。お薦め。