k-takahashi's blog

個人雑記用

明治天皇の一日 皇室システムの伝統と現在

明治天皇の一日 皇室システムの伝統と現在 (新潮新書)

明治天皇の一日 皇室システムの伝統と現在 (新潮新書)

 明治天皇の「特別ではない一日」の行動を一般向けに解説した一冊。先日の皇室典範論議など皇室を巡る議論は絶えないが、そんなときにこういう知識があると、また面白いのではないかと。


 前書きにあった

 そもそも日本語で「おほやけ」といえば、本来天皇家天皇自身をさし、天皇の存在そのものが公的と考えられてきました。つまり本来の日本語では、天皇は他の人々とは隔絶した存在で、その生活を公的、私的とは分けられないもののようなのです。(pp.3-4)

というのは、勿論、維新後、現代に至るまで大きく変わっている。その変わり始めの頃の様子を明治天皇の暮らしを紹介することで描写しようとしている。

 という硬い話はともかくとして、エピソード集として単純に面白い。書類の裏紙に和歌を書き付け、持てなくなるほど短くなるまで鉛筆を使う一方で、ダイヤモンドが大好きで買い集めてみたりするところなど、「そういう世界観に生きているのだ」という実例として、感心した。(ほとんど、FCSの世界である。)
 あるいは、乗馬を止めた理由、仕事時間中落ち着き無くあちこち歩き回った理由が、どちらも、宮中のしきたりを変えずに家臣の負担を軽くしようとする意図があったとか、伝統と合理性との、彼なりのおりあいの付け方であったわけだ。

 そういった伝統の多くは、大正・昭和と続くことで徐々に近代化という方向性から意図的に削減されていったが、一方で敗戦により意図せず失われてしまったものも少なくないようだ。(この部分は本書のスコープ外になるので、簡単にしか触れられていないが。)


 この一冊で皇室論を語るのはさすがに役者不足と思うが、面白エピソード集と思えば充分楽しめる。昭和天皇の宮廷改革が、ある意味身分制度を逆手に取ったものだったとか(皇族を皇后として迎えたので、従来の側室制度が身分的に成り立たなくなってしまった。で、それを契機に側室制度を本格的に廃止してしまった。)いうくだりは、多分別の本で詳しく論じられているのだろう。(昭和天皇がただものでなかったのもよく分かるが)
 RPGなどで王族を扱う場合の参考にもなると思う。