k-takahashi's blog

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新しい太陽系

新しい太陽系―新書で入門 (新潮新書)

新しい太陽系―新書で入門 (新潮新書)

 惑星という観点だけ取り出せば、冥王星は確かに惑星からはずれたといえるだろう。だが、それに伴って、冥王星は新しい種族「準惑星」の代表、さらには「冥王星型天体」の代表に据えられた、という側面が大きいのである。技術の進歩によって、新しい種類の天体がたくさん見え始めて、われわれの太陽系は極めて豊かに、さらに空間的にも広がりつつある、という現状が、あまりよく理解されずに、あの騒動が終わってしまったのは、一天文学者としても、大変残念だった。
 本書を著すきっかけは、まさにここにあった。天文学者が、いま現在、得られる限りの知見をもとにして思い描いている太陽系の描像を紹介するとともに、今回の冥王星騒動についても、皆さんに正しく理解して頂きたいと思って筆を執ったモノである。しばし、まだまだ道の魅力に溢れた太陽系の世界への旅を楽しんでいただければ幸いである。(はじめに、より)

 最新の知見をもとに、太陽系について解説する一冊。へえ、と思う話が満載で面白い。
他にも幾つか抜き出すと、

  • 金星の雲上の二酸化硫黄と硫酸微粒子が、1978年から1983年までの5年にわたって90%も減少したのである。(これは火山活動による一時的増加と考えられているらしい)
  • 小惑星帯について)最近、発見されたカリン族では、メンバーが増えるにつれて、その軌道計算から、約580万年前に衝突・分裂したと考えられている。
  • 小惑星帯領域で惑星が生まれなかった理由は依然として未解決
  • どうして小惑星の軌道が高精度で決まったのに、衝突するかどうかを確率でしか言えないのだろうか。実は、軌道精度が高くても、小惑星の素性や物理的特性によって近い将来の軌道が大きく異なってしまうからである。その最も大きな要因はヤーコフスキー効果である。

などなど。


 冥王星騒動についても詳しく書かれている。1992年の1992QB1の発見以降、太陽系外縁天体が多数発見されていたが、このときは天文学者はあまり気にしていなかった。その理由は3つあり、

  1. 研究論文を書く上で、冥王星に惑星というラベルが貼られていようがいまいが、障害とはならないから。
  2. 半世紀以上も惑星と呼び続けた慣性が大きかったから。
  3. それまでに、はっきりとした惑星の定義がなかったから。そして、惑星と太陽系外縁天体という二重戸籍を持つ天体があっても、実質的には誰も困らないからだ。

なのだそうだ。
 なお、IAU総会の最終日にいきなり提案が出されたのは、マスコミなどの外部攪乱を防ぐためだったそうだ。最終的な定義については、wikipediaの項目へ。基本的には、惑星を生成段階で卵/雛/親鳥のような3分類をしようというのが根本的なアイディアである。


 渡部先生も人が悪いことに、

報道では、どうしても定義策定に至る必然性や、天文学的な背景が省略されてしまっている。そのため、天文学者は単に冥王星を惑星から「降格」させただけと誤解している人も少なくない。冥王星は唯一、アメリカ人が発見した惑星であるから、アメリカ人天文学者は団結して定義案に反対した、といった誤った噂もまことしやかに流布してしまったようだ

と解説しておきながら、まさにその象徴のような新聞記事を引用している。理解しようとしないマスゴミに実は結構怒っていたのかもしれない。


 さて、本書の最後には、この定義の問題点にも触れている。

  • もともと、準惑星は自己重力で球形をなす「形状」を基準としているため、小天体との境界線は曖昧である。境界線上にある候補天体は、いまでも10個以上ある。
  • 小惑星帯のケレスと外縁天体の冥王星、エリスという存在領域がまったく異なる天体が、同じカテゴリーになったこと。

後者は、本来別であるものを同じにしてしまったことで、むしろ理解を妨げるのではないかとの懸念につながっている。発展段階による分類という観点からもこの2者を同一視するのは変だというのには同感で、近い将来、修正が必要になると思う。そのためには、調査や観測が進む必要がある。そう言ったニュースを待つのは、とても楽しみなことだと思う。