k-takahashi's blog

個人雑記用

宇宙旅行はエレベーターで

宇宙旅行はエレベーターで

宇宙旅行はエレベーターで

 クラークが序文を寄せていることからも分かるが、やはり、宇宙エレベーターのイメージはなんといっても「楽園の泉」。楽園の泉は1979年出版で、ヒューゴー・ネビュラのダブルクラウン作品。宇宙エレベーター知名度を飛躍的に上げたのは間違いない。


 ところで、本書が出る直前にバクスターが "Sunstorm"という小説を出版しており、そこには最新の知見を生かした宇宙エレベータが登場する。そこで描かれる宇宙エレベータは楽園の泉のものと幾つか異なる点がある。

  • 地球から塔を建てたり、小惑星をカウンターウェイトにしたりする必要性がなくなった
  • ケーブルの幅と厚みが最小化され、巨大で複雑な構造のケーブルは必要なくなった
  • 宇宙エレベーターの発着基地は、必ずしも赤道上に建設する必要がなくなった。赤道から35度以内であれば、建設可能なことが判明した
  • 最小化されたケーブルの重量は、これまで考えられていたものよりもかなり軽く、万が一、破断して落下したとしても大惨事になることはない。

などが主な相違点で、私も楽園の泉でイメージをすり込まれた口なので、変化には少々驚いた。
赤道上でなくてもよい、塔はいらない、などは楽園の泉のプロットに直結するだけに大きな変化と言える。


 他にも、最新の検討結果として、エレベータの先端が地球から10万キロとなるという結果が出てくる。静止軌道までの距離の3倍にもなる。それで、エレベータ全体の重心が静止軌道上にくる(エレベータ全体で、自転速度によって振り回される力と、重力によって引かれる力がバランスする)からエレベータも見かけ上静止することになる。そしてその条件が満たされている限り、地上施設が赤道上にある必要性もなくなるわけですね。言われてみて、なるほどと思った。
 ちなみに、著者等は、この話を色々なところでしているのだが、何度か10万キロのケーブルという話がすっと受け入れられたことがあるのだそうだ。その一つが吊り橋の建築業者の集まりで講演したときで、実際彼らは10万キロ以上のケーブルを取り扱っているからなのだそうだ。


 本書は技術解説書というよりは、スポンサー向けのプロジェクト提案書的な色彩が強い。そのため、実現可能か、リスクはどの程度か、成功したときの影響はどんなものか、といったところが詳しく書かれている。つまり、筆者等はかなり本気です。


 補足的な話ではあるが、月や火星にエレベータを作る場合の話も出てくる。
 まず月。提案法では静止軌道上に重心が来るように全体を建築するのだが、月の自転速度は非常に小さいため地球と同じ方法でバランスを取ろうとすると長さが300万キロメートルになってしまう。地球と月の間は40万キロメートルしかないから、これではエレベータが地球にぶつかってしまう。しかし、よく知られていることだが、月の自転周期と公転周期は一致している。つまり、月から見ると地球は常に天の一点に静止しているのである。よって、回転速度でひっぱるのではなく、地球の重力に引っ張って貰うことが可能なのである。この場合重心はラグランジュポイントになり、それより月側の部分は月に引っ張られ、地球側の部分は地球に引っ張られる。それがバランスすればよい。計算すると、L1(月から8万キロ)のところまでのケーブルとバランスさせるには地球側に22万キロ延ばせば良いことがわかる。
 次が火星。火星の場合は地球と同じ方法でバランスさせることになる。ケーブルの長さは5万3千キロ。問題は、火星の月、フォボスダイモスの軌道が5万3千キロよりも低いことである。両方の月を動かしてしまえという話もあるが、それは置くとすると、赤道でないところに地上施設を置くことで衝突を回避することが可能のようである。


 ともあれ、宇宙エレベータについての最新情報が得られる本であることは間違いない。宇宙エレベータという単語に興味があるなら必読。