k-takahashi's blog

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フィンランド軍入門

フィンランド軍入門 極北の戦場を制した叙事詩の勇者たち (ミリタリー選書 23)

フィンランド軍入門 極北の戦場を制した叙事詩の勇者たち (ミリタリー選書 23)

第二次世界大戦前夜、革命の輸出と膨張への野望に溢れていた社会主義大国 ソビエト連邦は、隣国である北欧の小国フィンランドに侵攻を開始した。圧倒的兵力を前に、瞬くまに国土を蹂躙されるかに見えたフィンランド。だがその時、祖国の危機を救う一人の英雄が現れた。(背表紙より)

 どこの小説ですかと言わんばかりの設定ですが、これが史実。
 英雄はともかくとして、政治状況としては、日露戦争だって一歩間違えばこうなっていたかもしれない(ロシアの極東進出のペースがもう少し速かったら? 明治維新が内戦化し富国強兵政策が遅れていたら? 英国が日英同盟を結んでくれなかったら?) 日本で冬戦争がよく知られているのは、こういう「他人事じゃない」感があるのも理由の一つでしょう。


 もちろん、冬戦争は重要で、冬戦争の起きた理由を遡ればフィンランド建国の話に辿り着くし、冬戦争・継続戦争・ラップランド戦争の帰趨とその影響は戦後のフィンランドという国に大きく影響している。ソ連崩壊・フィンランドEU加盟も戦後体制の修正という文脈で冬戦争につながっている。


 冬戦争、継続戦争の記述は詳細で、地図も多く分かりやすいです。


 建国(1917年)当初には、ボルシェビキ(革命政府によるフィンランド支配)と白衛軍(ロシア再興によるフィンランド支配)の争いに加えて、ドイツの敵であるロシアに敵対しているということで英仏から敵扱いを受けて大変な苦労。冬戦争時にはソ連とその同盟国であるドイツを敵に回して苦労。継続戦争以降は、ドイツの同盟国扱いで英米から敵扱いされ、戦後は戦後で大変。よくぞこれだけの流れの中で独立を維持できたというところには感心する。
 本書では充分な紙幅を割いてこの辺の解説をしてくれているので、フィンランド国民が一致団結してなどといった奇麗事で済んでいないことも分かる。カレリアの扱いなども、決して明確ではないし。


 本書は、序章が建国関連、第1章が冬戦争からラップランド戦争まで、第2章が兵器、第3章が編成、第4章が戦後、という構成になっている。装備や編成が戦争の経緯や政治状況に大きく左右されていることや、それでも目標に向けて工夫がされていたことが分かる構成。
 戦後については、日本ではしばしば「フィンランド化」という言葉で否定的に語られるが、「ソ連を満足させ(少なくとも睨まれない)る一方で、ソ連の侵略に備える」ということの難しさが実例を交えて紹介されている。
 例えば、ベルリン情勢が緊迫していた1961年にソ連から協議を求められたフィンランドは、実質的な話し合いは進展させつつも公式協議だけは回避した。公式協議を行えば西側から「フィンランドソ連の同盟国」と見なされてしまうからだ。一方でソ連を満足させるためにミグ21の購入を決定している。西側がスカンジナビア経由でソ連を攻撃しようとしたらそれに対抗するという意味である。 ところが、フィンランドは連合国側との講和条約でミサイルの装備が禁じられている。もちろん、V2対応なのだが、これをそのまま解釈するとミグにミサイルが積めないということになってしまう。条約を改定しようにも、そもそも旧連合国同士の緊張が原因なところでそんなことができるはずもない。などなど。結局、解釈変更でなんとか乗り切ったわけですが。


 他のゲームに流用する際のネタ集としても役立ちます。充分な国産兵器を入手できなかったのと、上述の政治的理由で安定した同盟を基盤にした軍事力整備ができなかったのとの理由で、フィンランド軍の装備は非常に雑多になっています。兵站上の問題があるので、普通はこういうシチュエーションは起こらないのですが、史実ですし。
 ロッタ・スヴァルドという女性による軍の補助組織があり、独立直後から活動開始、1921年に正式化している。看護や事務、給食はもとより、警備や伝令も行っていたそうだ。ちなみに、ソ連は「ロッタ・スヴァルドはファシスト団体であるから解散しろ」という要求を出したとのこと。邪魔だったんでしょうね。 ロッタ達の凛々しい姿や軍装はpp.274-275(写真)、p.343(イラスト)にが掲載されています。