ガンドッグゼロ リプレイ アゲインスト・ジェノサイド (Role&Roll Books) (Role & RollBooks)
- 作者: 岡和田晃,アークライト,狩岡源
- 出版社/メーカー: 新紀元社
- 発売日: 2009/05/29
- メディア: 新書
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個人的にはリプレイ本に求めているのは、プレイングガイドとしての側面が第一なのですが、その点では本書のレベルは非常に高い。通常の判定やTRSを使った判定、特殊技能の使い方(使いどころ)といったプレイヤー向け情報も、地図の使い方やNPCの使い回し方といったGM向け情報も丁寧かつ濃密に書き込まれている。
世界観の説明も、プレイガイドとして濃くなりすぎないレベルに押さえつつ、「こういう演出はあり」「こういうプレイはあり」というところが多数書き込まれている。
加えて、ストーリーも面白い。
これらを限られた分量の中できちんとまとめ上げており、これから遊ぼうという人にとっての有用度は非常に高い。リプレイが常にこのレベルなら、もっとリプレイ本を読んでもいいな、と思った。
一方、小説とリプレイがどうこうという評価もあるが、そこについてはまだ語るのは早いと思った。本作の本来のターゲットとなる人たちは、ゲームプレイがしばしば「作ったかのような展開」になることは経験上知っているし、ダイスの神様の演出能力の凄さも分かっているし、ルールの適用やオプション選択を考える裏でプレイヤーが何を考えているかを推測することもできる。そういう人には、本作の持つノンフィクションなフィクションというリプレイの面白さが満喫できる。
しかし、TRPGリテラシーの無い人にとってはルールが語ることなどの面白さを理解するのは難しいだろう。本書の場合そこがきちんと書いてあるだけに無駄と感じられる恐れがある。冒険小説としても面白いとは言うものの、一流どころに太刀打ちできるかと言われるとさすがに厳しい。
TRPG業界の市場規模としてはシステムなどの市場よりもリプレイ市場の方が大きいという状況にある。だが、リプレイ本は読むけれどゲーム自体はしない、というスタイルはどちらかというと低く評価されている。でも、需要的にリプレイの方が重要であるならば、システムの知識や理解が必要なスタイルで書かれた本というのも妙な話ということになる。わざわざ読みにくくしているだけになりかねないから。そこのバランスは難しい。
商業リプレイ本/リプレイ小説を書く人は多かれ少なかれ、この辺で悩んでいるのだろう。本書もその辺の両立に腐心しているのは分かる。が、通常小説に対抗するレベルで成功しているかというと、正直疑問である。
SF、ファンタジー、ホラー、ミステリーといったいわゆる「ジャンル小説」、短歌・俳句といった詩歌。こういった作品も、ある意味で特定のリテラシーを要求している面がある。ただ、彼らはそれなりに実績を積み重ねてきている。
一方でゲームはまだまだである。チェスやポーカー、将棋や囲碁をテーマにした小説はあっても、プレイそのものをもとにして何かできているかというと、何かが確立しているとは言い難い。
勝手な推測だが、似たような問題意識を将棋に対して持っているのが梅田望夫氏であり、彼は「観戦記」というスタイルに手がかりをつかもうとしているようだ。あれだけの知名度と歴史を誇る将棋が苦労している問題を、TRPGという遙かにマイナーな世界で解くのは難しいのかもしれない。でも、TRPGの持つ物語性という側面は、将棋より有利な点かもしれない。
などとつらつら考えるに、たぶん、文体か構成かは分からないが、何かまだ工夫というか発明が必要なのだろう。まだ見ぬ何かが。
ということで、岡和田先生、次回作はいつでしょうか? こんどは予約で買いますよ。