- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/03/25
- メディア: 雑誌
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ミエヴィルの「細部に宿るもの」は神話単語が出てこないクトゥルーもの。でも、読んでいると「アレだな」とわかる。
アダムズの「リッキー・ペレスの最後の誘惑」はある若者の物語。クトゥルー特集だと思って読むと、読み始めた直後にオチが読めてしまうのが残念。普通の怪奇短編集に入っている方が良かったかな。
マッキンタイアの「イグザム修道院の冒険」はホームズもの。
最後のエリザベス・ベアの「ショゴス開花」は、個人的に今回の特集の一押し。ヒューゴー賞受賞作でもあるので、海外での評価も高いようだ。ショゴスの生態の新解釈も面白い。先日言及した「クトゥルフ2010」には深きものを学術的に分析した記述があって面白かったが、本作では、学名付きの生物(学名オラクポダ・ホリビリス、俗名コモン・サーフ・ショゴス)として、学者の研究対象となっている。そこがきちんとラヴクラフト設定に沿った上でプラスアルファがあるところがよい。 加えて、人種差別ネタまで組み込んでいる。この辺は日本ではあまり使われないやりかた。
デモンベインやにゃる子さんも良いけれど、その分海外新作の紹介は確かに手薄になっていたのかもしれない。
ところで、解説の中村融氏は今回の特集で
"Old Ones"と"Elder Gods"という用語は、それぞれ「旧支配者」、「旧神」と訳されることが多い。だが、これはダーレス流の設定から導き出された訳語であり、今回の特集の意図にそぐわない。そこで、前者を<古のものたち>、後者を<旧き神々>と訳して統一した。(p.41)
としている。意図は分からないでもないが、既存の言葉をどう引用をするかというのはクトゥルーものの肝なので、もうちょっと柔軟でも良かったのではないだろうか。特にショゴスに関連する "Elder Things"は、「古のもの」と訳されることが多いわけで、ちょっと読んでいて混乱した。
第5回日本SF評論賞の解説と、受賞作「虐殺器官へ向き合うために」(岡和田晃)が掲載されている。私は「世界内戦」という概念自体が本当にそれほど有効か?という意識があるのでそこが引っかかるが、でも熱さは確実に伝わってくる論文。 論文としての評価は瀬名氏のいう「近寄りすぎ」という評価に同意です。
TRPGの観点から
まず、執筆者紹介の岡和田氏のところ。
とあって、RPGが最初にあるのが、ちょっと嬉しかったり。
その後、爆発的なヒットとなったTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)『クトゥルフの呼び声』がこの枠組みを採用したことから、≪クトゥルー神話≫といえば、もっぱら善悪二元論的な立場で邪神と闘う人間達の物語になってしまった。それはそれで面白いにしろ、本来のコズミック・ホラー色が薄れたことはたしかだ。(p.39)
この枠組みというのはいわゆるダーレス流の「善悪二元論」のこと。
中村氏のいう「コズミックホラー色」なプレイは確かに多くないだろうけれど、ダーレス流と言い切られるとちょっと違和感を感じる。海外ではそうなのかな。