k-takahashi's blog

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萌え萌えクトゥルー神話事典

萌え萌えクトゥルー神話事典

萌え萌えクトゥルー神話事典

 なんかもう、表紙がすべてを語っているとも言える。(ただ、これは完全にエロ本のイラストタッチになってしまっており、ちょっとやり過ぎとも思う。)

ラブクラフトが時代を先取りしようと作り出した「創作神話」は僕らの心をダイレクトに揺るがし、P2P的な精製過程を経て、カオス理論モデルのごとく、作家達の間にパンデミックし、広がっていった。神話は語る毎に要素が増え、新たな邪神や忌まわしい本が創られ、共有されていく。そうして、僕らはここに来た。ラブクラフトの死後70年が過ぎ、クトゥルー神話はとんでもない境地に達した。いつの間にか、魔道書『ネクロノミコン』は10歳の美少女となり、巨大ロボットを駆るようになった。我らが這い寄る混沌、ナイアーラトテップに至っては、銀髪美少女になって、バールのごとき名状しがたき物体や銀河CQB術108手をふるって邪悪な敵をばったばったと虐殺するようになっていた。これがエンターテインメントというやつだ。(あとがき、より)

 それで、神話生物をいわゆる萌え系のイラストにしたてて本にまとめたのが本書。ある意味で安易な企画ではあるが、もはやクトゥルー神話とはそういうエンターテインメントなのである。

 前半130ページほどがイラストと説明の組み合わせで、ここはカラーページ。シャッド・メル、ミ=ゴやショゴスには笑った。「大いなる種族」は、どこが大いなる種族なのか今ひとつ話からなかったが。


 後半60ページほどは解説記事で、ここは軽いノリながら悪くない入門ガイダンスになっている。
記事中で面白かったのが「ダーレスがダメだ!」論への反論が随所に見られるところ。四元素説や善悪論などは従来「ダーレスがラヴクラフトのポリシーを台無しにした」と言われることが多かったが、ダーレスはそれほどこのやり方に意固地ではなかった(他のアプローチを薦めている場合も結構ある)ことや、ラヴクラフトが「それもいいかも」的なことを言ったという指摘もある。その辺について一カ所紹介しておきます。

 現在、ダーレスの独自設定は否定される傾向にあるが、中でも四大元素説は現在の神話作家や読者達からは無視に近い扱いを受けている。
(中略)
確かに四大元素説が頻繁に言及されているものの、禁断の書物から旧支配者について知識を得た登場人物の主観的な解釈として台詞中に現れるのが殆どで、クトゥルー神話世界での客観的な事実では決してない。
(中略)
ダーレスは彼らの作品にアドバイスや「神話についての思い違い」の指摘をしたと言うが、ダーレスは彼らに四大元素説を強要したような形跡はない。
 大方の批判者達が考えるほどに、オーガスト/ダーレスは彼のこしらえた四大元素説に拘泥していなかったのである。(p.37)