k-takahashi's blog

個人雑記用

フリー

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

ここに無料(フリー)のパラドックスがある。料金をとらないことで、大金を稼いでいる人々がいるのだ。すべてとは言わなくても、多くの者がタダになっていて、無料か無料同然のものから一国規模の経済ができているのだ。それはどのようにして起こり、どこへ行こうとしているのだろうか。
これが本書の中心となる疑問だ。(プロローグより)

このテーマは本にするのに申し分ないと私は思った。「まちがっている」と「自明のことだ」というふたつの意見にわかれる話題は、どんなものであれ、良いテーマに違いない。この本を読んだ皆さんが、最初はどちらかの意見を持っているにせよ、読み終わったときには、どちらにも与していないことを私は願っている。フリーは新しいことではないが、変わり続けている。そしてその変化は、人間の行動や経済的インセンティブに関する基本的な理解を見直すよう私たちに迫っているのだ。(プロローグより)

話題の一冊。やっと読みました。


 著者のクリス・アンダーソンは「ロングテール」で有名な人。今回もフリー現象を理解する幾つかのキーワードを提示している。私が思うところでは、以下の部分かな。

  • アトム経済とビット経済(これは本質的異なるもの)
  • 希少性と潤沢性(扱い方も管理の仕方も異なる)
  • 潤沢な情報は無料になりたがる。希少な情報は高価になりたがる。(だから人為的に希少化すればいい。その方法の一つが著作権法。)
  • 補完財の力
  • 競争市場においては、価格は限界費用まで下落する。(だから、価格を決定する第一の要素は限界効用)


そして、なにより大事なキーワードが「フリーミアム」。

皆さんは人生のどこかの時点で、朝起きると、自分が時間よりもお金の方を多く持っていることにきづくかもしれない。そうすると、あなたは行動を変えるべきだと思うだろう。(p.92)

これがフリーミアムの根底にある発想。限界費用が小さいのだから多くの人がただ乗りするのを気にする必要はない、限界効用が高い人は喜んでお金を払うはずだ、全体でペイする、という考え方。本書に依れば、5〜10%くらいを目指すと良いそうだ。


 ウェブ側からビジネスを提案する立場にある人は、一通り目を通しておくべき一冊。歴史、発想から始まり、想定される反論まで丁寧に書かれているので役に立つ。自分の頭を整理するのにも向いている。全部読むのがという人は、巻末付録のリストだけでも価値がある。


 私が幾つかひっかかりを感じた点をメモ代わりに。そのうち何か自分で思いつくか、誰かが何か教えてくれるだろう。

  • ミュージシャンはライブで儲ければよい。作家は紙の本を売ればよい。と言うが、本がデジタル化(アトムからビットへ)しつつあるなか、このモデルはうまくいくだろうか?
  • ボードゲームシミュレーションゲームはアトム部分があるからそれで儲ければよいとして、TRPGは厳しそうだ。
  • 企業文化は「失敗するなから」から「早めに失敗しろ」に変わるのだ。ここが難しそう。自分の勤務先の上司にこれを説得するのはものすごく難しそうだ。
  • YouTubeは、もう黒字化したという意見もある。本書が出たのは半年前だというのに。
  • 心理的取引コスト(ペニー・ギャップ)はそれほど深刻な問題だろうか?


 紹介エピソードでも色々と面白いものがあったので幾つか。

  • 週に一度来店すれば会費が無料になるスポーツジム(p.47)
  • フランスの書籍販売者組合がアマゾンの送料無料サービスを訴えた件。敗訴したアマゾンの対応はサービスをやめずに罰金を払う、だった(p.88)
  • 今日のコストではなく、明日のコストから価格を決めたフェアチャイルド(p.105)