- 作者: チャールズ・ストロス,酒井昭伸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/02/25
- メディア: 単行本
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向こうで本書が受けたのも、日本でケータイ小説が若い層に”自分たちの文学”として受けたように、これがギークにとっての"自分たちの文学”だったからではいだろうか。(p.506)
なるほど。我々がケータイ小説を読んでもリアリティのない話にしか感じられないのに、ケータイ小説読者層にはリアルで共感を呼ぶストーリーだと言うが、彼らがアッチェレランドを読んでももリアリティのない話にしか感じられないが、我々にはリアルで共感を呼ぶストーリーになっている、というわけか。
第一章は、元KGBのロブスターの亡命を助ける話。人類がシンギュラリティを迎える前に避難所へ泳ぎ去りたいというのがロブスターの要求。これに対してマンフレッドの回答は、
頭にあるのは、KGBのロブスターだ。連中、人類圏から隔絶された避難所をもとめてる。このさい、きみのカーゴカルト式自己複製ナノマシーン工場のクルーとして契約させてみたらどうだ? ただし、ロブスター側としても万一の場合の保険は欲しいだろう。そこで、深宇宙観測ネットワークの出番となる。たとえばの話、M31銀河にあるかもしれない異種知性のマトリョーシカ・ブレインに向けて、ロブスター達のコピーをビーム送信してやれば……(p.41)
これならまだそれほど変な話ではないが、これは序の口。三部構成の第一部の第一話でしかない。このあと段々、ストーリーは加速していく。登場人物が何を考えているのか段々分からなくなってくる部分もあるのだが、描写が「面白い」ので「まあ、そんなもんだ」的に読み進めることができる。主人公達が本質的な意味での「ポストヒューマン」ではなく(上述のマンフレッドでも)、世界の異質さを表現するクッションとなってくれている(世界〜主人公達〜読者)のも、読みやすさの理由なのだろう。
帯にある「クラークの思弁」というのは、本書全体が「幼年期の終わり」を思わせるような展開を見せるところからだろうが、少なくとも私の楽しみ方は、クラークを読む楽しさと言うよりは、描写を楽しむ部分の方が大きかったと思う。
ファーストコンタクトものとしてとらえると、少々皮肉な展開になっている。でも、ありそうな話ではあり、次にFCS(First Contact Simulation)の話をするときには、参考にしたいかな。
星雲賞の投票は、第二部まで読んだところでこれに投票してしまったのだが、何も問題はなかった。
あ、あと猫SFでもあります。