k-takahashi's blog

個人雑記用

グローバル・イノベーション

グローバル・イノベーション 日本を変える3つの革命

グローバル・イノベーション 日本を変える3つの革命

 ベタープレイス・ジャパン社長の藤井清孝氏が、自身のニュービジネスの紹介と、日本に必要なイノベーションについて語った一冊。すっきりとまとまった一冊になっている。

「自己改革」という念仏を唱え続けることにより、本当は小手先の小さな変化を起こしているに過ぎないのに、大改革を行っていると錯覚している古いリーダーが本当に必要な改革の芽を摘んでいるのである。(p.12)

プロ野球の世界で一度はリーグ優勝するチームは幾つか存在するが、連覇するチームは非常に少ない。V9を達成した巨人の監督と選手達の能力は最終章に述べたとおりだが、やっと勝つことができたチームと、勝つ仕組み自体を作り込んだチームの違いは大きい。
日本は1980年代にビジネスの世界リーグで一度優勝しているが、その後はバブルで選手の気が緩み、凡庸な監督が続いたので最近は優勝戦線に参加できていない。しかし、ここの選手は非常に優秀であり、優勝チームにいてもおかしくない連中ばかりだ。これは監督の問題なのだ。そして早く優勝争いに再び加わらないと、優秀な選手から勝利へのドライブが消えていくのを私は懸念する。(p.190)

この最後の一文が、最も重要な危機なのかもしれない。


 著者の言う3つのイノベーションとは、「ビジネスモデル」「ガバナンス」「リーダーシップ」の3点。一つ目は非常に良く聞く話。二つ目は、ガバナンスを変更できるようなシステムの必要性。三つ目はいわば「がむしゃらさ」を維持する仕組みの必要性。それぞれ納得できる説明を加えている。

 一つ目のビジネスモデルについて、筆者の本業である電池交換型電気自動車ビジネスが具体的に紹介されているところも面白いところ。この部分は、ビジネス企画プレゼンの実例としても読める。幾つかの課題を超えて市場を立ち上げる方法として「東京のタクシービジネス」というのは、なるほどと思った。2016年のオリンピックが東京だったら、大チャンスになったんだろうな。


 ブラックボックス(他社が真似できないようにした部分)をオープン戦略を用いて普及させ、収益源とするというのは、インテルやMSが大成功させたモデルだが、著者がそれを国家レベルでも通用するとしているのは面白い指摘。自分の真の付加価値を高める努力を続け、繁栄のチャンスをつかみ取れということになる。


 本書は日本のポテンシャル(上述のブラックボックス部)を高く評価しており、「だから、前に進もう」という話になっている。こういう姿勢がまさに求められているのだろう。そういうところで面白かった言い回しを2つほど引用。

人類の起源はアフリカとの説を信じるとすると、ベーリング地峡を渡ってアメリカ大陸に移り、ネイティブ・アメリカンになったグループを別にすると、日本はアフリカからは最も遠い場所にある文明国である。このような「地の果て」までの長旅は、遺伝的、体力的に強い種でないと耐えられなかったはずだ。(p.166)

整然とした街、時間通りに運行する交通機関、優秀で親切な人、昼間は何か潤滑油の聞いた巨大な精密機械が効率的に回っているような印象を持つようだ。
一方で夜はすばらしい料理、心のこもったサービスで日本人のもてなしに深く印象づけられる。また、京都や鎌倉に行けば、東京都はまた違う歴史の深さを感じさせる。
訪問者が異口同音に言うのは、「聞いていたより、実際に体験した方がずっと印象がよい」ということだ。これは発信や宣伝は下手だが、現場がすばらしい日本での当然の結果であろう。(p.188)


 一方、フィリピン人ベビーシッターのエピソード(pp.167-172)は、筆者の主張を受け入れることの困難さを如実に示している例だと思う。著者はこの例もリーダーシップの問題に帰結しているが、それだけではなかなか済まなそうだ。