- 作者: 渡辺靖
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/10/21
- メディア: 新書
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そんなややこしいアメリカでは、リベラリズムと言えば自由放任に反対する政治思想のことである。欧州流の「自由主義」とは意味が逆になる。
こういった逆説がアメリカの中には満ちており、それに関わることを丹念に拾い上げていく一冊。
例えば、個人献金。
オバマ大統領就任式の実行委員会は、企業や組合、ロビイストからの献金は一切求めず、すべて個人献金のみに制限した。
その半分近くが上限の5万ドルを献金した富裕層で占められていた。(p.51)
果たしてこの制限は、よく言われていた「庶民のお金で」という観点から見て妥当なのだろうか。
あるい、二大政党制の問題
第三の極を実質的に欠いたまま、共和・民主両党ともに有権者の過半数の支持を獲得しようとするため、おのずと政策の大枠は似通ったものにならざるをえない。加えて、支持率に大差が無い場合、政権与党は相手の政策をある程度取り入れることで政治的な安定を図ろうとするため、さらなる折衷化・中庸化が進む。その結果、国政全体にとっては比較的、枝葉末節の事象が、差異化の手段としてクローズアップないしヒートアップされる傾向が生じやすくなる。(p.71)
重要な問題について齟齬を来さない、より多くの人に支持される政策が採られるという点では良いことかもしれないが、比較的些末な問題で当選者が決まるとすると悪いことなのかもしれない。
最近アメリカでは、メガチャーチという組織(教会)の活動が目立っているという。(言われてみれば、テレビシリーズ「デッド・ゾーン」に出てきたのもこれだな)
キリスト教保守派の巨大教会のことだが、これも不思議な存在。厳格な聖書解釈を求める一方で、アロハシャツとジーンズをまとった牧師がバンドに混じってタンバリンを叩くのだそうだ。
人々を教会へと向かわせ、何はともあれ、イエスの教えに心を開かせたメガチャーチの功績を擁護する声は強い。また、社会階層と教派が密接に結びつくなど、排他性が強い主流派教会に比べれば、より開かれており、「神の下の平等」を体現しているという指摘もある。(p.93)
単に保守的なでは言い表せない組織のようだ。しかし、アメリカの「保守」が建国の理念のことであるならば、より開かれたこの教会組織は主流派教会よりも保守的となるのかもしれない。
ああ、ややこしい。
結論ありきの極端なアメリカ論が好んで消費される日本にあって、アメリカで読んでも納得のゆくアメリカ論というのはさほど多くない気がする(p.214)
というわけで、なんというか、あの国のややこしさの一端が伺える一冊。安易な結論が欲しい人は読んでも無駄だと思いますが、「あの国はよく分からん」と思っている人にはお奨め。