k-takahashi's blog

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デジタルゲームの技術 〜技術の位置づけと展望のまとめ

デジタルゲームの技術 開発キーパーソンが語るゲーム産業の未来

デジタルゲームの技術 開発キーパーソンが語るゲーム産業の未来

昨年出版された『デジタルゲームの教科書』*1のフォロー本。

各要素技術の概要や、現在の最新トレンド、今後の展望・方向性についてのインタビュー集(はじめに、より)

ということで、

  • CEDECとは:吉岡直人
  • ミドルウェア:大前広樹
  • テクニカルアーティスト:麓一博
  • キャラクターアニメーション:金久保哲也
  • AI:三宅陽一郎
  • キャラクター表現:竹下勲・渡辺雅央
  • サウンド管理:矢島友宏・土田善紀
  • ネットワーク:節政暁生
  • プロジェクトマネジメント:橋本善久

と9章に分けて記載されている。『教科書』と違って、現場の人間が「こういう流れがあって、今後こういうことをします」という説明になっているので、臨場感がある。


読むときには、こういう本で何を意図しているのかという意識が強く書かれているので、第一章の吉岡氏の次は、三宅氏のAIの章を読むと良いと思う。あとは順番に。
どの章も興味深い話が多く、通読する価値は充分あると思う。


以下は、備忘録代わり。

吉岡:ということですね。一方、アカデミックな世界ではほんとうにもう何百台もクラスターを作って、そこでブン回すというアプローチはやっているわけですから、同じ事をやってもあまり意味ないですしね。(第1章 p.20)

CEDEC囲碁イベントではわざと低スペックのマシンを使っていることについて。ゲーム機への適用を考えるとハイスペックPCよりは望ましいという考え方。なるほど。

Web業界の人たちはこういったツールを使ってゲームを作るというのが好きですから、このスタイルはわりと一般的になりつつある感じですね。(第2章 p.51)

ミドルウェア市場の今後について。

大前:ゲームが実行されている状態で、実行しながらゲームをそのまま作っていくというステップになってくるんですね。これはイテレーションタイムが2秒とか5秒とか……。
ほぼゼロに。
大前:そうそう、ゼロになるんですよ。
(第2章 pp.62-63)

ゲームの作り方が変わるという話。システムはあとから作るという方法でも出来てしまう。

テクニカルアーティストを導入することで生まれるものは、プロジェクトの効率化と自動化、ドキュメント化であって、火消しの特効薬ではないと言うことですね。効率化の部分で言うと、テクニカルアーティストのお仕事って、変な言い方ですけど、お金を直接生み出すと言うことよりも、効率化によってコストを全般的に引き下げる役目が大きいですか。(第3章 p.86)

テクニカルアーティストとは、という話。

金久保:海外のモーションキャプチャースタジオは、日本と比べて圧倒的に広さや設備が充実している。北米ですと、ゲームだけでなく、ハリウッドを中心とした映像業界もあって、たくさんの案件がある。モーションキャプチャースタジオとして成立させやすいし、設備を整えやすい。例えば「バイクで走り回るようなモーションキャプチャーをしたい」といっても、現状、日本では無理でしょうという話になりますね。(第4章 pp.120-121)

今後ボリュームに追いつけなくなるかもしれない、という危惧に関連して。

三宅:これは日本人好みのAIかなと自分ではおもっています。実際にプランナーやエンジニアに説明する度に大きな反響があります。キャラクターAIというのは、どっちかというと自我の強いAIですが、メタAIというのはゲームから一歩引いた場所から、全体をうまいこと調和するような、そんなAIです。学術においても、研究が進むことを期待します。(第5章 p.189)

ゲーム内でキャラを動かすAI(エージェント)とゲーム全体をコントロールするメタAIがある、という話から。

矢島:足音って、みんな単純な足音でできていると思われているんですが、実際には踏みにじったりする音を重ねていくし、アクセサリーの音が入るからアクセサリー重ねていって、下半身の服の動きをあてて、上半身の服の動きあててって、足音という動作だけでこれだけ重ねてならすんです。この手で充てていく時間を減らすことで音自体の作り込みや期間の短縮につなげられるのはとても重要なことだと思います。(7章 p.282)

だから、モーションや映像の間合いを変えたときに音を付け直すのは大変。それを自動化したいという話も。

節政:「ここまでとりあえずオフラインで作ったんだけど」と、他の部や別のチームがやったものを、「これ、ネットワーク対応させるには、どうしたらいいでしょうか」と言われることが宛て、もうちょっと早く言ってくれれば、デザイン段階で「こうしておいて」と言えるんですが、できあがった後でこれを言われると非常に厳しい。(第8章 p.313)

ちょっとした修正でオンライン化がすごく楽になるのに、という事例が多いらしい。

橋本:何も根拠がなく、誤解の下のアジャイルというものに従って長期計画を軽視した解釈をしている人が多いんじゃないかと。ですが、我々は極めて長期計画を重視しています。とにかく計画と設計ありき。(9章 p.344)

FF-XIVをアジャイル手法で開発していることについて。FFは13で酷い開発遅れをやらかしたこともあり、開発管理強化をしていることは予想していたが、この章全体を読むとなかなかうまく進めているような印象を受けた。



インタビュー時期が今年の4月〜6月ということで、昨日読んだ『世界ゲーム革命』の内容を踏まえた話が多かったように思う。効率化をどう進めるか、開発方法論をどうするかという意識も感じられた。

第2章のミドルウェアを使った開発手法(イテレーション間隔をゼロ!)と9章のFF級サイズのマネジメントの対比とかも興味深い。

*1:

デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド

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