k-takahashi's blog

個人雑記用

もうダマされないための「科学」講義 〜今ダマされている人には届かないだろうけれど

もうダマされないための「科学」講義 (光文社新書)

もうダマされないための「科学」講義 (光文社新書)

311震災を経た現在、科学を巡る状況は混乱下にあるが、科学を上手に使うにはどうすればよいか、という辺りをテーマにシノドスがまとめた一冊。
内容は大きく2つあって、ニセ科学問題と原発を巡る問題。もちろん、両者は渾然としていて、一般社会の側は科学をどう捉えれば良いのか、科学の側はそれにどう対応すれば良いのか、とも言い換えられる。


第一章(菊池誠)、第三章(松永和紀)、付録(片瀬久美子)の内容は、個人的にはよく知っている内容をコンパクトにまとめたものだった。第一章の方はちょっとコンパクトすぎたかもと思う。ニセ科学批判系の本を読んだことのない人だと、コンテキストが追えないかもしれない。
その意味で、タイトルの「もうダマされないため」なら、松永さん、片瀬さんの章をまず読むのがよいと思う。
片瀬さんの『放射性物質をめぐるあやしい情報と不安に付け込む人たち』については、関連資料を示すリンク集がご本人のページで紹介されています。http://d.hatena.ne.jp/warbler/20111009/1318150706


難しいのが残りの2つ。


伊勢田先生の内容では、幾つか興味深い考え方が紹介されていた。
それが「モード2科学」。問題解決や応用・適用といったことを主眼に置いた「知のありかた」で、狭義のサイエンスは「モード1科学」となる。その分け方だと、工学部は「モード2」的と言えばよいので、主張している内容はそれほど違和感がないのだが、そういう違うものがしばしば混同されるというの示すための用語として、分かりやすい解説だった。
その先も面白くて、「疑似科学」(菊池先生が悪用批判の観点から「ニセ科学」という言葉を使うのに対し、伊勢田先生は価値判断を保留するという立場から「疑似科学」をいう言葉を使っている)とモード2科学についてこんなことを書いている。

モード2科学と疑似科学とは、普通は、違う方向性のものに見える。モード2というのは、科学をより有用にするために、科学の扱う領域を拡張しているのに対して、疑似科学は単に誤用・卵用をしている、そのように映る。
しかし、科学哲学は科学の方法論に関心がある。その観点から言うと、両者には非常に似た部分があるわけです。(p.91)

おそらく森さんも、本人のつもりとしてはモード2科学的なものをやっているのでしょう。つまり科学的な証拠は若干あまいかもしれないが、、ゲームをする子供が増えたという「問題」を生活の知恵で解決しよう、という心づもりでいるのだと思います。(p.92)

だからといって、森のやっていることがインチキなのは事実で、では、そこにどうやって線を引くか。伊勢田先生の案は以下のようなもの。

以下の所与の制約条件の下で、もっとも信頼できる手法を用いて情報を生産するような集団的知的営み
a)その探求の目的に由来する制約
b)その研究対象について現在利用可能な研究手法に由来する制約
(p.97)

少し噛み砕くと、

こうした手段が利用可能である問題設定で、しかもその領域で仕事をしている場合に、こうした手段を取り入れないのは疑似科学的だと言えるでしょう。逆に、いちばん信用できる方法論が、伝統的生態学的知識を取り入れることだった場合には、それをしっかりと導入するのが科学だということになります。(p.98)

となる。


平山氏は科学コミュニケーションの問題を書いている。
欠如モデル(一般市民の科学への理解が不足しているのが原因)ではなく、トランスサイエンス領域での対話を重視しようという話なのだが、個人的には違和感が強い。
「連中に科学的な考え方は分かって貰うのは無理。だからその前提で、トランスサイエンス問題をなんとかする方法を考えよう。どうせ社会の側でそれを考えるのも無理だろうから、科学の側でなんとか考えないといけないね」と言っているような印象を受けてしまうのですよ。ちょっと不遜な気がする。(気にしすぎかもしれないけれど。)

その意味で、「はじめに」にあった以下の部分

「理由はともあれ遺伝子組換え作物(または原発・科学物質等)はいやなんだ」という感情は重視されるべきである(p.13)

は拒否しておきます。理由は、そこに「オタク」でも「AB型」でも「黒人」でも「エイズ患者」でもなんでも入れてみれば分かるでしょう。そういう感情を持ってしまうのはある程度仕方ないとしても、それを「重視」するのは「不正義」だと考えます。まして科学の側からそういうことを言うのはダメでしょう。(モード1科学では絶対に否定するべき内容だし、モード2科学にしても正当化できるのはそうとう限定された場合だけだと思う。)

2011/11/24 追記

伊勢田先生によるエラータ。
http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~tiseda/works/errata.html#moudama