k-takahashi's blog

個人雑記用

アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 〜チェックリストはマニュアルでも教科書でもない

アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】

アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】

友人Mに薦められて読んだ一冊。

私たちが何かを出来る領域では、失敗の原因は二つだけだ、とゴロビッツとマッキンタイアは言う。
一つ目が「無知」である。科学は発達したが、わかっているのはまだほんの一部分だ。建設できないビル、予知できない大雪、治せない心筋梗塞など、私たちが知らないことはまだまだ多い。二つ目が「無能」だ。正しい知識はあるのだが、それを正しく活用できない場合を指す。設計ミスで崩落する高層ビル、気象学者が予兆を見落とした大雪、凶器が何だったかを聞き忘れることなどがこれにあたる。(p.17)

複雑でややこしい状況をできるだけうまく扱うための方法論の一つがチェックリスト。本書は、チェックリストの有効性を説明し、チェックリストの誤解を解き、導入を薦める一冊。


チェックリストとはなにか。本書では

現状把握とコミュニケーションの円滑化こそが、ここ数十年の建築の最大の進歩だ(p.80)

としており、これを行うためのツールが「チェックリスト」だという立場を取る。


本書で示される様々なエピソードは、チェックリストがもたらす効果が色々と語られる。それは実際に効果を測ってみると予想以上の効果をもたらしている。それは単に「何かをする」以上のことをもたらしている。
それが「現状把握」と「コミュニケーション」なのである。


例えば、「自己紹介をする」というチェックリストの項目がある。

この自己紹介には正直違和感があったし、効果にも懐疑的だった。だが、実はとてもよく考えられたものだった。
(中略)
手術開始前に看護師に自己紹介と懸念を話す機会を与えると、その後も問題を提起したり、解決策を出したりしやすくなる、という研究結果が出た。(p.125)

コミュニケーションを高めるための自己紹介という方法論を、チェックリストに記載することで確実に実行する。そして、それは直感的でないが故に、チェックリスト化しないとスキップしがちというわけ。


もちろん、チェックリストを作れば良いというものでない。著者は自分でもチェックリストを作ってみて、実際に使用してみたが、最初は全然役に立たないどころか足を引っ張りかねない代物だったそうだ。


そして、チェックリストを作る際の注意点が幾つか書かれている。(p.142)

  • いつチェックを行うか、つまり一時停止点をはっきり決めないといけない
  • チェックリストは長すぎてはいけない。原則として項目の数は5個から9個にしておくと良い。
  • 一つの一時停止点に60秒から90秒かかってしまうと、チェックリストはかえって邪魔になってしまうことが多い。
  • だから、飛ばされがちだが致命的な手順に絞るべき。
  • 必ず実世界で試用する必要がある。
  • チェックリストはマニュアルではない。(p.149)
  • 目的はチェックリストを使って貰うことではなく、チェックリストを通じてチームワークと規律の文化を醸成して貰うこと(p.183)

チェックリストを妨げるもの

本書は、医療、建築、航空など様々な分野でチェックリストが有用である例を紹介している。でも、なかなか導入は難しい場合が多い。なぜか?
それについてこんなことが書かれている。

チェックリストは手間がかかるし、面白くない。怠惰な私たちはチェックリストが嫌いなのだ。だが、いくらチェックリストが面倒でも、それだけの理由で命を救うこと、さらにはお金を儲けることまで放棄してしまうだろうか。原因はもっと根深いように思う。(p.198)

著者の仮説は以下の通り。

私たちは、チェックリストを使うのは恥ずかしいことだと心の奥底で思っているのだ。本当に優秀な人はマニュアルやチェックリストなんて使わない、複雑で危険な状況も度胸と工夫で乗り切ってしまう、と思い込んでいるのだ。
「優秀」という概念自体を変えていく必要があるのかもしれない。(p.198)

正直に言えば、思い当たります。反省。


本書には様々な実例でチェックリスト導入の有効性が紹介されている。「チェックリスト? 面倒なだけなんじゃ?」と思った人は、多数のエピソードを読んでみてほしい。様々な実例を通じて、こうした懸念を乗り越え、「じゃあ、使えるところから使おうか」と思わせるところが本書のポイントだと思う。


世の中にある多くのチェックリストと称するものは、実際には「マニュアル」である。本書で言うチェックリストとは、ある程度分かっている人が、より効果的に効率的に動くためのツールなのだ。いわば「ライト点いていますか?」なのである。そう考えれば、「優秀」な人でなければチェックリストは有効に使えないと考えることもできる。
もしかすると、他の名前をつける方が導入を促進するのには良いのかもしれない。いずれにせよ大事なのは考え方。


面白かったエピソード

本書のメインの話とはちょっと違うのだけれど、面白かったのが以下の部分。

ヴァン・ヘイレンのボーカルを務める彼は、コンサートの契約書に「楽屋にボウル一杯のM&M’sのチョコレートを用意すること。ただし、茶色のM&M’sは全て取り除いておくこと。もし違反があった場合はコンサートを中止し、バンドには報酬を満額支払うこと」という事項を必ず含めるそうだ。実際、ロスが茶色のM&M’sを見つけてコロラド州でのイベントを中止したこともある。一見、有名人にありがちな理不尽なわがままに聞こえるが、詳しく聞いてみると見事な方策だということがわかった。(p.93)

見事な方策、の意味が分かるだろうか?

スタッフや機材の人数が多いので、契約書は電話帳並みに分厚かった。その契約書に試金石としてM&M'sの項目を入れておく。「そして、もし楽屋で茶色いM&M'sを見つけたら、全てを点検しなおすんだ。すると必ず問題が見つかる」 それが命に関わることだってある。コロラド州のイベントでは、興行主が重量制限を確認しておらず、セットは会場の床を突き破って落ちてしまうところだった。(pp.93-94)

「試金石として」かならず入れておくというところになるほどと思った。これを入れておき、適切かどうか確認するというチェック方法だったわけだ。


先日、ミスを繰り返している部門から「忙しいからサンプルを書いてくれ」と言われて、「あくまでもサンプルなのだから、くれぐれも丸コピーしないように」と注意したところ「全部チェックして書き直すから大丈夫」と言ってきた。
それで、一カ所わざと明白な間違い(というか、調査が間に合わなかったので明らかなダミーデータ)を入れたままサンプルを送ったら、案の定そのままコピーして提出していた。
「出てきたら、○○のところをまずチェックして」と連絡しておいたので、直ちにコピーが発覚。で、「丸コピーするな、と言われんたんでしょ?」と注意を受けたら、「全部確認して妥当だから使ったのであって、コピーではない」と言い訳してきたそうだ。丸コピーがすぐにバレたことに気付かず恥の上塗りをしてしまったわけだ。
まあ、情けない話ではあるが、疑いがあるときや重要なときにはこういうのもせざるをえないし、むしろ有効。
これもチェックリストなのかな。