k-takahashi's blog

個人雑記用

オホーツク核要塞

 

冷戦期には、オホーツク海ソ連原潜の聖域にするために北海道を取ろうとしている、という話があり、それは基本的には間違いではなかったのだけれど、もう少し詳しく見ていって、それが現在にどう繋がっているのか、を解説している。

実際には、ソ連戦略原潜の聖域として確保しようとしてたのはバレンツ海オホーツク海バレンツ海の方は欧州に近かったこともあり研究が多いが、オホーツク側はそれほど詳しく書かれた資料が少なかった。そういう点からも貴重な本。

この聖域は戦略核ミサイルによる核抑止(いわゆるMAD)のためのもので、この核抑止がウクライナ侵略戦争を可能にした(核の恫喝で西側の支援を妨げられるから)とも言えるわけで、現代にも強く関連している。

 

冷戦期にどういう認識と活動をしていたのか、ロシアの経済混乱のときにどういうことがおきたのか、それは今どうなっているのか、というのが方針と装備の両面から整理されている。ロシアは、核抑止力を持つがゆえに大国なのであるという理屈からすると、この「聖域」は適切に維持されなくてはならず、その優先度は高い。

聖域は戦略核ミサイルを搭載する原潜、聖域を守る部隊、聖域から外部にアクセスするための手段などかなりの規模となる。ただ、オホーツク海の原潜から直接米本土に核ミサイルを撃てるなら、外部にアクセスする手段は重要ではなくなる。なので、そういう原潜(667B型原潜とR-29ミサイル)の配備はとても重要。この場合、焦点は聖域を守る部隊の展開がどうなるか。冷戦期には日本の防衛政策にも大きく影響している。
そして、現在では、カリブル化(カリブル長距離巡航ミサイルをあらゆる艦艇に搭載する動き)というのが聖域確保の手段となっている。とすると日本の対露抑止力は統合ミサイル防衛ということになる(現在も近い未来も、日本の主たる脅威は中国なので、対中抑止を損なわない方法であることも大事)。

 

で、現在のロシアの核戦略はどうなっているのかという話になる。もちろん、公開情報は少ないが、何を公開するのかしないのかというところが既に核戦略の一部なので分析はできる。

 

冷戦期の記憶のある人や冷戦期の資料を読んだことのある人だと、当時の話と今の話を繋ぐ興味深い説明として読めると思う。

あと、小泉先生が実際にロシアの施設や、原潜の活動状況を分析していくところを具体的に解説する部分もOSINTの実例として面白い。