- 作者: スティーブン・レヴィ,上浦倫人
- 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ
- 発売日: 2007/03/29
- メディア: 単行本
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最初の2つは、ジョブズの偏執狂的な拘りが素晴らしい成果に結びついたということだ。
人が優れた仕事をできないのは、たいていの場合、彼らがそう期待されていないからだ。誰も本気で彼らの頑張りを期待していないし、これがここのやり方なんだと言ってくれる人もいない。でもそのお膳立てさえしてやれば、みんな自分で思ってた限界を上回る仕事ができるんだよ。歴史に残るような、本当に素晴らしい仕事がね。 (p.330)
しかし、3つめのiTunesストアは少し違う。これはジョブズが音楽を心底愛しており、敬意を持っていたからこそ実現できたのだと言える。ジョブズの発言
突然インターネットが出現して、彼らの商品を盗み始めた。ナップスター後遺症に悩まされ、常に糾弾すべき相手を捜し回っている。そしてテクノロジー業界にまで非難をぶつける。一方テクノロジー業界の側は、彼らの商品にどれだけ手がかかっているかしらないから、違法ダウンロードをどうでもいいことだと思っていて、『うーん、ぼちぼち彼らも新しいビジネスモデルを作る必要があるね』で片付けてしまう。でもどっちも間違いなんだ。(p.183)
本書の著者スティーブ・レヴィですら、音楽業界・映画業界に対して、上記引用部のテクノロジー業界の側の態度を露骨にとっている。礼賛本の著者ですら理解できていないことを実行してしまったところが、ジョブズの凄いところなのだろう。「誰にでも使いやすく」というジョブズのポリシーは、ハードやソフトだけでなく、環境にまでおよんだ。「音楽を楽しむ」ためには、普通の人にとっての「使いにくさ」である「違法コンテンツの再生装置という認識」も解決する。おそらくは、ジョブズにとってそれは一連のものだったのだろう。
もう一つ、ipodを使ったコミュニケーションのニュースタイルの話が面白かった。初代ウォークマンは、コミュニケーションの妨げとなることを恐れ、ヘッドホン端子を2つ付けていた。しかし、結局音楽空間はパーソナルなものとなる。それはipodも同じ。
ところが、ipodは奇妙なコミュニケーションスタイルを生み出した。聴いている曲のクールさを比較したり、収録されている曲で相手を判断したりすることだ。もっとも、これはSNSの方に主戦場が移ったようだが。
ということで、非常に面白い本なのでipodに関心のある人(というか、関心の無い人はほとんどいないだろうけど)にはお薦めの一冊。但し、ジョブズへの愛が過ぎるのか、どうも正確さにかけるきらいがあるので、そこは注意が必要かも。
記録デバイス(テープ、MD、CD-Rなど)には著作権向けの料金が加算されている。数年前、MP3レコーダーやシリコンオーディオ機器にも課徴するかどうかという議論があり、それが「ipod税」という名前で語られていたことを著者が知らないはずはない。ないのに、引用部のようなことを書いてしまっている。この手の言い過ぎは相当程度あるのだと思う。 が、まあ、とりあえずはipodの凄さを考え直すためにも、一度読んでみるとよいと思う。