- 作者: 瀬名秀明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/08/30
- メディア: 単行本
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デカルトという名前は、彼の心身二元論を通じて、意識と肉体の問題を示すキーワードになっている。
本作では自由意志のよりどころを最後には物語に求めることになる。意識は、脳・身体・宇宙という三重の牢獄(密室)に閉じこめられており、ネットを利用することで最初の二つは脱出したが宇宙自体を脱出することはできない。そこで、まず、宇宙と一体化すればいいという、かなり無茶な論理を展開するがこれは目くらまし。実際には意識を脳が生み出す物語であるならば、物語に一体化すればいいのだ、という展開になる。そして、そのために、ロボット(AI)であるケンイチを事件に巻き込む必要があったのだ、と。
「Brain Valley」同様、本作もこれでもかとばかり過剰なほどに様々なアイテムが放り込まれており、良くも悪くも瀬名テイスト。
小説構造としては、ケンイチ(AI)とユウスケ(人間)の両者が混ざり合っており(二人とも小説内で小説を書いている、という設定)、しかもネット・AIが題材だから、現実とVRとが混ざり合っている。謎の女性フランシーヌと彼女そっくりのロボット、現在と過去の回想との混在、などもあり、読みながら「一体今書かれているこの記述は何なのだ?」ということを常に意識しながら読む必要がある。そういう意味で、読みやすい小説ではない。
ただ、この主体や認識対象や記憶などは、いずれも意識に関わる話なので、おそらくは意図的にやっているのだろう。効果は悪くないと思う。
結局、フレーム問題と自由意志(物語の作者)の話の決着は、ついたようなついていないような、という微妙な結末になっている。私の感想としては、「実験方法は分かったが結論は出ていない」というものだが、これが正しいかどうかは分からない。瀬名先生が色々と書いてらっしゃるはずなので、そのうち読んでみよう。
あと、第3章を読んでいて、なんどか頭に浮かんだのがゲーバー本*1。もう一度読んだ方がいいような気もするのだが、最初に読んだときは、ほぼゴールデンウィークを潰す羽目になったからなあ。今それだけの時間をまとめてつぎ込むのは厳しい。
*1: