k-takahashi's blog

個人雑記用

クマムシを飼うには

クマムシを飼うには―博物学から始めるクマムシ研究

クマムシを飼うには―博物学から始めるクマムシ研究

 サイエンスライター森山和道氏が発行しているサイエンスメール(http://www.moriyama.com/sciencemail/)という有料メールマガジンがある。そこに掲載された鈴木忠氏のインタビューを再構成した単行本化したもの。


 中身は、クマムシの飼い方の説明ではない。ここで言う「飼う」は「楽しむ」という意味で、鈴木氏の前著を受けた形で補足や周辺などについて話ている。何が分かっていないのか、何を研究したいのか、それはなぜ難しいのかといった辺りの話が面白い。非常に小さい動物なので、資料の収集もあまり進んでおらず、分類方法すら定かではないのだそうだ。
 一応定説とされているクマムシの筋肉図があるのだが、それが本当に正しいのかどうかも実はあまりきちんと検証されていない。「アオノリの上にイソトゲクマムシがいた」という記述があっても、それが一般的なのかたまたまなのかも判然としていない。クマムシの研究というのはそういう状況にあるのだそうだ。
 一方でそういう研究やましてや資料収集となると研究費の獲得だけでも大変だというぼやきが何度も語られている。さらには大学院生の研究課題にもできない。どのくらいの時間でどのような成果が出るか全く予想できないから。こういう研究を支える仕組みが日本には非常に乏しい。


 エピソード的に面白かったのは、「アメーバを見たことありますか?」の話。
最近は学校の回りで簡単にアメーバを見つけることが難しくなった。更にアメーバの飼育は決して簡単なものではない。そのため、本物のアメーバを見たことのない子どもが増えているのだそうだ。それも科学部に入っている子供でもそうなのだとか。つまり、学校の周りにいないから手に入らない、教師も入手方法が無い、から。
 資料収集についても、大学の先生が研究をしようとすると、雑用で色々と時間をとられるというのもあるし、さらに、受験シーズンになると学内総出で試験に駆り出されるので、その時期に標本収集のために長期間外出するのが極めて難しいとか。日本の場合さらに、このての縁の下の力持ち的な部分に金を出さないので、問題が悪化してしまう。


 クマムシと言えば、乾燥して樽状になると、高温低温圧力放射線でも死なないという不死身伝説が知られているが、実際にきちんと研究で確かめられているものと、そうでないものとがごっちゃごちゃになっているとのこと。
 この不死身伝説関係で面白いのが、樽状になったあとで死んでしまうことがあるのだが、その場合そのクマムシはいつ死んだのか、という話題。樽状になったときには代謝もなにもないので、いったいいつ違いが起こったのか。 生と死の違いを考えるときにこのクマムシの樽状状態(クリプトビオシスと言うらしい)は非常に面白い素材。