k-takahashi's blog

個人雑記用

時をかける恋

 大森望によるアンソロジーシリーズ「不思議の扉」の第1集。これは「時間もの」「短編ラブストーリー」。選び方が面白くて、こういうのを作るのってアンソロジストにはたまらないんだろう。太宰治まで入れてくるんだものな。
ただ、冒頭が梶尾真治(「美亜に贈る真珠」)、最後がジャック・フィニイ(「机の中のラブレター」)と、きちんとしめるところはしめているところがさすが。 


 一番笑ったのが、太宰の「浦島さん」に出てきた亀の饒舌ぶり。

いや、冒険なんて下手な言葉を使うから何か血なまぐさくて不衛生な無頼漢みたいな感じがして来るけれども、信じる力とでも言い直したらどうでしょう。あの谷の向こう側にたしかに美しい花が咲いていると信じ得た人だけが、何の躊躇もなく藤蔓にすがって向こう側に渡って行きます。それを人は曲芸かと思って、或いは喝采し、或いは何の人気取りめがと顰蹙します。しかし、それは絶対に曲芸師の綱渡りとは違っているのです。藤蔓にすがって谷を渡っている人は、ただ向こう側の花を見たいだけなのです。自分がいま冒険をしているなんて、そんな卑俗な見栄みたいなものは持ってやしないんです。何の冒険が自慢になるものですか。ばかばかしい。信じているのです。花のあることを信じ切っているのです。そんな姿を、まあ、仮に冒険と呼んでいるだけです。あなたに冒険心がないというのは、あなたには信じる能力がないと言うことです。
信じることは下品ですか。信じることは邪道ですか。どうもあなたがた紳士は、信じないことを誇りにして生きているのだから、しまつが悪いや。それはね、頭のよさじゃないんですよ。もっと卑しいものなのですよ。吝嗇というものです。損をしたくないと言うことばかり考えている証拠ですよ。(p.207)

この調子でしゃべりまくります。