k-takahashi's blog

個人雑記用

ルワンダ中央銀行総裁日記 〜ロボット官僚無き司政官の戦い

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

 1965年、アフリカ中央の小国ルワンダ中央銀行総裁として着任した日銀マン。それが服部正也氏。氏が財政と国際収支の慢性的赤字に悩まされていたルワンダの経済改革を進める6年間の苦労を綴った本。名著の誉れ高き一冊だったが長く絶版だったもの。
なので、まじめな解説はググればいくらでも出てくるのでそちらに譲る。


 読みながら感じたのが、「眉村卓の司政官シリーズに出てくる司政官にロボット官僚が居なかったら、仕事の大半はこんな感じなんだろうな」というもの。強力かつ限定された権限。旧植民地という経済環境。外部から収奪を狙う連中。国内の雑多な問題。安全保障上の脅威。などなど。ああ、こういう感じなんだなと言うのがよく分かる。
特に旧宗主国側の人間が、「ルワンダ人は怠け者だ」と決めつけ、経済知識の乏しいことや経済制度の不備を突いてボロ儲けをしているあたりに憤りつつも、自らの持つ専門性と権限を活用しながら解決に取り組むところとか。
本書の書かれたのが1972年、司政官の第一作が1971年。眉村先生が本書を読んでいたかどうかは分からないが、ある種の時代の空気的なものはあったのかもしれない。


 著者は、主に経済の問題を解決するのだが、その問題の把握の仕方、解決の仕方が面白い。例えば、ルワンダ人は怠け者だという問題をどうしたか。筆者は、使用人や官吏を見る限り確かに怠け者かもしれないと一度は考える。しかし、町中を歩き回ると、国民の大多数を占める農民は働き者だと気付く。

考えてみれば、後進経済の厳しさは怠け者の存在を許すわけはない。流通機構が整備されておらず、政府の財政力も乏しく、かつ行政能力も低い自活経済の農民は、働かなければ餓死するのである。狭い土地で人口が多いルワンダではそのことは特に酷い。(p.131)

では、なぜ主力産物であるはずのコーヒーの生産が停滞しているのか。著者は、それが、物資の不足が理由だと気付く。現金収入があっても買うものがない、だから農民一人一人の観点に立てば、コーヒーのような換金作物を育てる動機がないのである。
もちろん、国全体としては輸出品が増えてくれないと困る。さて、どうするか。ここからが専門家の腕の見せ所。様々な手段を組み合わせていく部分には、ロジカルパズルのような面白さがある。トラックの価格を決める、バスを会社を建て直す、倉庫を造るというところがきちんと経済に影響するのである。(こういうところも司政官ぽいところなのかもしれない。)


 当時のルワンダには為替制度や税制などの制度的な欠陥が多くあった。それらを40年後の日本から見れば、なんでそんなことをと思うようなものばかりだが、既得権や独占や思い込みが根を張っていたわけだし、それに準備不足対策とかルワンダ人保護とかいう口実もある。筆者はこの面でも説得に苦労している。
しかし、きちんとした条件を整え、最低限の支援をしたら、暴利を貪っていた外国企業はあっさりと現地商人に負けていたりしていた。
この辺は読んでいて愉快だったのだが、今の日本が当時のルワンダと同類の過ちを正せずにいるのではないか、という心配も感じた。


 本書の終盤は、「発展を阻むもの」として、外敵、人、天候と国際市況をあげている。ここも、40年たっても充分改善はしていないんだな、と残念に思う部分。


 国の制度とはどうあるべきか、経済政策はどのように行うべきか、アフリカへの援助とは、というまっとうな問題意識にもきちんと応えてくれる本であり、ビジネス術や交渉術の生きた実例を紹介してくれる本でもあり、プロフェッショナリズムを貫いた男の生き様を綴った本でもあり、SFやゲームのネタ本でもある。
実にお得な一冊。お薦め。