k-takahashi's blog

個人雑記用

人工生命作成までの5年間の記録 〜青いコロニー

 先月のニュースにこんなものがあった

【5月21日 AFP】自己再生が可能な細菌を人工的に作製することに初めて成功したと、米国のJ・クレイグ・ベンター研究所(J.Craig Venter Institute)が米科学誌サイエンス(Science)電子版に発表した。

人工細菌の作製に成功、環境問題解消に大きな期待 米研究所 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

クレイグ博士はヒトゲノム解析プロジェクトに殴り込みをかけたCelera Genomics社のリーダーとして一躍有名になった人。その彼が、人工生命の作成に成功したというニュース。


実は彼の研究の様子をディスカバリーチャンネルが密着取材を続けていて、米国でも今月3日に放映されたばかりの番組が、日本でも緊急放映となった。

HV制作/史上初めて成功した人工生命の画期的な研究を5年に渡り追ったドキュメンタリー。2010年5月21日、ベンター博士率いるアメリカの研究チームが史上初めて、自己複製能力をもつ生きた細胞を人工的に生成することに成功したと発表。化学合成したDNAで生命の設計図・ゲノムを作成「人工生命」に相当する成果には、将来の医薬品開発などへの応用が大いに期待されています。

http://japan.discovery.com/episode/index.php?eid1=869259&eid2=000000

昨日の放映版は字幕無しで英語音声のみ。なので細かいところまでは聞き取れた自信はないのだが(字幕版は来週22日放映予定)、貴重な映像を見ることができた。


 まずは2003年にウィルスの遺伝子の人工合成に着手。サルガッソーに出かけて海洋中から大量のDNAをサンプルとして集め、それをベースにして2年がかりでウィルス遺伝子の人工合成に成功する。
 この時点で一旦大きなニュースになり、そもそもそんなことを研究していいのか、発表していいのかという議論になった。(最終的には政府のチェックを経た上で発表が許されるということになった。)
 そして、2005年にバクテリアの遺伝子の人工合成に着手する。当初は、最小サイズのバクテリアであった M Genitalium を対象に、そのDNAを人工合成することを目指した。しかし、DNAの作成も困難な上に、作成したDNAを細胞内への移植もうまくいかない。
2年後にクレイグ博士は方針転換を決定、移植方法の目処が立っていたMycoidesという別のバクテリアにターゲットを変更する。しかし、これは2年間の研究成果を捨てることになるうえ、合成すべきDNAのサイズが遙かに大きくなると言うリスクの大きな決定だった。


 番組はこのあとの3年間の部分をスキップし、クレイグ博士が研究の商用化の準備をするシーンを映す。(おそらくはノウハウに関わる部分が多くて、博士の許可が得られなかったのだろう。) 二酸化炭素を吸収・固定するバクテリアというビジネスをたてようとしている様子が紹介されていた。そういえば、この博士ってこういうタイプの人だったなあ。


 そして、迎えた2010年3月29日、ついに実験は成功し、ペトリ皿の上に青いコロニーが育っていた。この青色のコロニーが、人工合成したDNAとそのDNAが合成したタンパク質で構成された細胞が育っている証拠である。研究スタッフが乾杯する様子が映される。
(公式発表は、2ヶ月後の5月20日


 研究所の中身とか実験設備とか会議の様子とか、なかなか珍しい映像がいっぱい。字幕放映があったら、もう一度見てみよう。