ジェット・エンジンの仕組み―工学から見た原理と仕組み (ブルーバックス)
- 作者: 吉中司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/09/22
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 23回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
本書は、ジェット・エンジン設計の第一線で活躍してきた著者が、ジェット・エンジンが高性能である理由と仕組み、さらに実際の設計の過程を、工学的原理を元に解説します。(おびより)
ジェット・エンジンの設計や製作には、多くの工学的な知識が必要である。こうした幅の広い話題を一冊の本にするのが、この本を書くにあたっての、最大のチャレンジだった。(あとがき、より)
著者の吉中司氏は、P&Wで27年間勤務し、現在はコンサルタントとして活躍されている。基本的なところから始まり、テストやオーバーホール、安全管理といったところまでが網羅されている。その意味で、著者のチャレンジは成功した言える。
(ただ、ME262がB-29を撃墜したとか、真珠湾陰謀論だとか、歴史関係のところは色々と疑問を感じる記述も多い。)
そもそも、ジェットエンジンはレシプロエンジンとどう違うのか?
各ピストンが吸気する時間はエンジン運転中の25%だけとなる。それなら、ピストンの代わりに、いつも吸気できるような圧縮機があれば、同じ時間辺りの吸気量なら、連続して吸気できる圧縮機の大きさはピストンの4分の1で済む。
しかし、ピストンは空気を圧縮するだけでなく、出力を生む働きもする。だから連続吸気のできる圧縮機を使うなら、燃焼ガスの膨張仕事を連続的に受け取る何らかのメカニズム(これがタービンである)が必要となる。(pp.14-15)
という説明から始まり、エンジンには、連続性圧縮機と連続性膨張機があることを示す。そこから個々の部品にはどういう機能が求められ、それがどのように実現されているかの説明に続く。
これが意外に本格的で、H-S図(p.31)まで出てくる。H(エンタルピー)だのS(エントロピー)だのって、大学の教養課程で勉強する概念だと思うのだが。
歴史の所(上で、歴史の所は怪しいと書いたが、開発史の方は大丈夫だと思う)に固有振動周波数の計測方法について面白いエピソードが書かれていた。
動翼振動問題で注意を要するのは低次の振動モード、そして、その中でも一番振動周波数の低い一次の曲げ振動モードである。このモードでは動翼の根元に節があり、先端に腹がある。そこで、ベンテレ博士はタービン動翼の根元を支え、先端にバイオリンの弦を軽く当てて弾き、その音をピアノ調律師に聞かせ、ピアノのどのキーの音と同じかを判定させた。(p.70)
大戦期の頃のエピソード。
他にも、ジェットエンジンの性能で馬力を用いない理由(p.87)とか(前進速度のない試験中にゼロになってしまう。同じエンジンが積む飛行機によって異なる性能になってしまう。)、エンジンの冷却システムの話とか(p.153-)。タービン翼に穴を開けそこから空気をながして空気の膜を断熱材として使う、てなことをやっている。ちなみに、大型エンジン1機の冷却能力は1500kWが必要。(普通の家の電力消費量750軒分に相当する)
安全設計やテスト、オーバーホールなどの解説もある。FAAの検査手順の話もあるし、整備の方法論の変化の解説もある。
元々オーバーホールはFAAが認可したタイミングで行うのだが、それがどういう条件で延長されるのかとかも書かれている(この値は、同じエンジン同じ機体でも、エアライン毎に異なるのだそうだ)。そして、そのオーバーホールも、常時監視による方法へと進化している。
安全性を確保するための規制も、こうしたエンジンの安全性評価の向上と合わせて変わっており、その話もある。
丁寧に分かりやすく書かれている好著。とは言え、普通の人ではなく航空ファン向けではありますね。ジェット・エンジンに興味のある人ならお薦め。
SR-71のエンジンJ58について「いろいろ特別な工夫がされており、それはそれは面白い話がいくつもある」(p.286)とほのめかされており、そこ読みたいと思った。(J58はP&Wのエンジンだから、かなり突っ込んだ話が期待できる。)
追記 2011/11/06
ロールスロイスのフラッシュアニメがあった。合わせて読むと分かりやすくなると思う。
http://www.rolls-royce.com/interactive_games/journey03/index.html