- 作者: マイクル・フリン,嶋田洋一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/10/29
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1348年8月、ドイツ南部の村ホッホヴァルトで異変が発生する。森の中から大きな音が聞こえ、振動が伝わってくる。目覚めた神父の神は逆立ち、教会の塔の先端にはセントエルモの火が灯っていた。異変の調査に向かった神父達が目にしたのは、薄緑色の斑点のある灰色の肌、長くて毛のない胴体、鼻も耳もなく金色の巨大な目を持つバッタを思わせる怪物だった。
この怪物が実は宇宙人。翻訳機はあるもののニュアンスまでは正しく伝わらないという状態で、なんとか協力体制を取ろうとするディートリヒ神父。この神父が物語の中心人物で、当時としては相当開明的な考え方の持ち主で、基本的に善意に基づいて行動するのだが、もちろん異星人とのファーストコンタクトの経験があるはずもない。また、社会的不安定(英仏100年戦争やアヴィニョン捕囚などの時期にあたる)、近くにある盗賊領主の脅威や黒死病という恐怖にさらされている人々の不安、そもそも異形のものに対する不安、両者の文化差が原因の誤解などが立ちふさがる。また、この神父の過去にも色々とあって、いつ異端審問に呼び出されても不思議の無い状況で、これも行動の選択肢を狭めてしまう。
エイリアンの側も、上下関係を重視する文化の持ち主なのだが、着陸時に船長が死亡したという状況。そして、船には3つのグループ(クルー、学術調査団、巡礼)があって、勢力争いが微妙になってしまっている。
ここに、エイリアン(クレンク人)の一部がキリスト教に関心を持つという事態、クレンク人の必須栄養素の一部が地球の食物からは摂取できないという問題、などが加わり、話がさらにややこしくなっていく。
このあたりを緻密に組み立てた設定から丁寧に書き込んでいる。この辺が読んでいて面白いところ。
また、現代パートもあって、理論物理学者と同棲している統計歴史学者(トム・シュヴェーリン)という人物が登場する。彼は、現代に残されている資料から、問題の村が何かおかしいということに気がつきその調査を行っている。 この部分、いったい本編とどういう関係を付けるのかと思っていたら、最後に綺麗なオチに繋がっていた。(これ以上細かく書くとネタバレになる)。
不完全な情報、不明確な状況、身勝手な周囲、手に負えない問題(黒死病)、俄には克服しがたい恐怖心、自らの過去の所行という制約の中で、常に相互誤解という難問に直面しつつ事態の改善に尽力する神父の努力が痛々しくも感動的。かくも、相互理解は困難な道なのだな、と。
TRPGゲーマーの方へ
よく「中世ヨーロッパ風」というのがあるが、そういう村人・領主・騎士・聖職者や行商人・学者という人たちがどういう風に考え行動するか、ということについての非常に生き生きとした資料になっている一冊。
別に、ゲームがリアルである必要はないわけですが、異星人とのファーストコンタクトというある意味で非常にゲーム的な状況設定なので、色々な反応をする人々の具体的な行動例として参考になると思います。