k-takahashi's blog

個人雑記用

無添加はかえって危ない 〜良い本ではあるのだが

無添加はかえって危ない ―誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない

無添加はかえって危ない ―誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない

風評被害というのは、これと完全に反対のものだと思います。「誰かが不幸になることで自分が利益を上げる」というものであり、世の中全体の成長につながらないばかりか、多くの不幸になる人を生み続けます。そしてその背景には、私たち自身の無関心と私たち自身の情報元への偏りがあり、その風土がいつでも新しい「魔女狩り」を生み出す素地になっていると思うのです。
(中略)
風評被害というものは、勝手に発生するものではありません。風評被害が発生しうる土壌に、風評被害を起こして利益を上げたい人たちがいることで発生します。「あそこのは危険だ、でもうちのは安全だ」という売り口上がやがて大きな風評被害を生み出してしまうのです。
(はしがき、より)

いわゆる「恐怖商法」を批判する一冊。主に食品添加物を対象にしているが、当然ながらその他色々なものにも応用できる考え方を説明している。
中身はこの手の解説本としては一般的なもので、当然ながら特に変わった点はない。


実は、一番変わっているのは著者の現状だったりする。

イクメンを初めて、不思議なことが起こりました。子供の世話をして気がつくと「粉ミルクは安全なのだろうか」「離乳食は大丈夫かな」、そして「今食べさせているこのお菓子は、危なくないだろうな」などと頭に浮かべているのです。育児雑誌やインターネット、広告などを見ていると、「あれは危険」「これは危ない」という情報がたくさん載っていて、それらを目にすると、それまでは何とも思わなかったのに、なんだか言いしれぬ恐怖感というものも襲ってきました。自分のことはともかく、我が子のこととなると、こうも感情的になるものかと我ながら驚きました。(p.11)

ということで、育児の真っ直中のお父さんということになる。
子供が絡むとなかなか大変で、あの中西準子先生ですら、

我が家の事情
私は、週2日娘の家に手伝いに行っている。孫の相手をしたり、夕飯の仕度を手伝ったりする。3.11の時、上の子は4歳3ヶ月、下の子は1歳9ヶ月。ここでは、今でも北関東の野菜は禁止となっていて、私もそこにいる間はそのFood Codeを守っている。
下の子は、トマトやイチゴのような少し酸味のあるものが好きで、かなりの量を食べるので、親もとても気にしている。買い物に出ると、京都産とか香川産とかの物を探してくるが、とてつもなく高いし、味は今いち。先日までは、肉はいいということになっていたが、今回のことで、さらに厳しくなっている。
間違って買ってきたりすると、「悪いけど、持って帰って」となり、家に持ち帰って年寄りだけで食べる。この間は、粉ミルクは大丈夫かが議論になっていた。「あまり気にするな!」とは言うが、それ以上は踏み込まないことにしている。「避けること」と、「避けないこと」との差はあまりないのだが、手伝いに行っている者が、あまり理屈を言うのもねと思って。

http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak556_560.html#zakkan558

と、一歩引いてしまうほどなのである。


さて、こういう「本当に安全・危険なのは何か?」という本で一番問題なのは、「そういうことに騙されている人」になかなか届かないということ。本書もそもそも、なかなかこういう問題をうまく伝えることができないでいた中野プロデューサーが

有路さんはこの問題に対して、BSEのリスクは限りなくゼロに近い一方で、全頭検査をすることで約1兆円の経済的損失があるという研究成果を発表されました。(p.214)

というのをみて、有路さんに依頼して始まっている。
ただ、育児で頭がいっぱいになっている人たちに社会的経済損失の話をしても届かないケースが多いんですよね。


だから、いっそのことタイトルをイクメン研究者が教える 本当に危ない食品添加物 〜インチキ業者から子供を守る方法」とかもっとキャッチーにしてしまっても良かったかな、と思った。


個別項目

特に新規な内容は少ないと思うが、個人的に参考になったところを幾つか備忘録的に。

無添加でもそうでなくてもアルコールが含まれていて、そのアルコールは食品添加物としてのアルコールと科学的には同じものです。むしろ無添加味噌の方がアルコール含量の多い場合すらあるというのは驚きでした。でかでかと表示してある「無添加」にはどんな意味があるのか(p.29)

保存性向上のためにアルコールを添加することがあるが、そういう「添加」味噌よりも、無添加味噌の方がアルコール濃度が多かった、という例。

もう一度サンドイッチの表示に戻ってみます。調味料(有機酸等)とpH調整剤は、微生物の増殖を防ぐ力が弱い「日持ち向上剤」としての機能を持っている場合があります。「保存料」とは区別されているので、上の部分に堂々と「保存料は使用しておりません」と書いてあるのです。同じ使用目的なのに、なんだか分かりにくいですね。(p.34)

保存料は使っていないけれど、日持ち向上剤は使っているサンドイッチが「保存料は使用しておりません」と書いている例の解説。

1969年には米国でチクロが動物にがんを発生させたと発表され、デラニー条項に基づいて使用禁止とされました。
(中略)
その後の研究によりチクロには発がん性のないことが確認されました。化学物質の発がん性を分類して公表している国際癌研究機関(IARC)によると、チクロはグループ3(人で発がん性ありと分類できない)とされています。(pp.52-53)

発がん性疑いのため使用禁止となったチクロは、のちにシロと判明した。

日本人1人1日当たりの硝酸摂取量190mgのうち169gが生鮮食品で、主に果実・野菜・海草類に由来するものでした。残りは加工食品由来の硝酸ですが、それも20.5mgのうち、14.5gが果実・野菜・海草類の加工食品でした。硝酸はもともと野菜に多く含まれる成分なので、このような結果になったようです。(p.108)

人間が摂取する添加物のほとんどは天然由来であること示す例。

ヤマザキパンはなぜカビないか」という題名で、市民講演会で食品衛生の話をされたときのことをかかれたものです。
講演会では、終了後に聴講者の方から「市販の食パンには保存料がたくさん入っているから、カビが生えない」という意見が出たそうです。これに対して長村先生は「市販のパンには保存料は入っていません。保存料を使用しなくても工業的に無菌的な環境で製造されたパンは、数日くらいの日持ちは当然です」(筆者注:保存料の入っているパンもある)と説明されたところ、さらにこんな意見が。
「私は市販パンは買わなくて、自分の家で食べるパンは全部家庭で作っていますが、3日も持ちません」そこで、答えた長村先生「申し上げにくいことですが、あなたの台所がパン工場より汚いからです」

後半の受け答えの部分が笑えました。(関連記事はこちら

「これは、新鮮な生肉で、無添加ですから、安心して食べられます」と、レストランで生肉を提供されても、私は食べません。(p.142)

たしかに、こういう食中毒のことを何も分かっていないレストランで食べたくはないな。

ここで注意しなければならないのは、私たち消費者が食のリスクについてうまく理解できないことや、リスクについてどのような気持ちでいるのかということを専門家に伝えてこそ、リスクコミュニケーションが成立すると言うことです。いや、それを伝えなければ、リスクコミュニケーションは成立しないと思ってください。
(中略)
2003年に施行された食品安全基本法においては、全ての国民に対してリスクコミュニケーションをする義務があるとうたっています。
(p.182)

そうなの?と思って調べてみたら、確かにそう書いてあった。

(消費者の役割)
第九条  消費者は、食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15HO048.html#1000000000000000000000000000000000000000000000000900000000000000000000000000000