k-takahashi's blog

個人雑記用

ハンバーガーの歴史 〜労働者向けの安い食事から文化へ

ハンバーガーの歴史 世界中でなぜここまで愛されたのか? (P‐Vine BOOKs)

ハンバーガーの歴史 世界中でなぜここまで愛されたのか? (P‐Vine BOOKs)

世界中で食べられているのは、ごく普通の安価なハンバーガーだ。お金を掛けずに作れて、食べるのが簡単。肉や具材、調味料、薬味を工夫すれば、味も食感も見た目も様々に変えることができる。ハンバーガーの適応性の高さ、常に新しいものを取り入れようとするチェーン店の姿勢、きちんとした生産体制。こうした条件をそろえたハンバーガーチェーンはこれからも店舗網を拡大し続けていくだろう。(p.145)


ハンバーガーのカルチャー史。フランチャイズのところに紙幅を割いていて、それにまつわる様々なエピソードや歴史的経緯が面白い。

生い立ち

ハンバーガー自体の起源ははっきりしていない。牛挽肉で作ったパティを焼いて二きれのパンで挟んだものとしてみると、起源としてはサンドイッチがあることは明らかで、ハンバーガー自体も19世紀のアメリカで生まれたことは分かっている。ただ、それがどこか、いつかということは分かっていない。


イギリスで生まれたサンドイッチは18世紀にはイギリスの上流階級で流行し、レシピ本も残っている。こういう料理は一口サイズであった。
これが、アメリカでは労働者階級の食べものとして大きなロールパンに様々な具をたっぷり挟んだものになる。そんな中の人気料理がビーフサンド。これを食べやすくすること、衛生のため火を通すことなどを考慮した結果生まれたのがハンバーグステーキ。時に19世紀後半。しかし、食べやすく細かくしなくてはならず手間のかかる高級料理だった。
これを一変させたのが、1876年のフィラデルフィア万国博覧会で紹介された肉挽き器。これは調理を簡単にしただけでなく、捨てるしかなかった屑肉を料理に変える技術でもあった。


同じ頃アメリカの工業化が進み、「夜勤」という勤務体系が始まり、彼らに食事を供給するワゴンが商売になっていた。
そして、このワゴンが改良され、ガスグリルが搭載されるようになる。これで温かい食べ物を供給できるようになったのだ。当初の主力商品はホットドッグ。ソーセージをパンで挟んだもの。ここまで来ればハンバーガーまでは一息である。
しかし、いつ始まったのかははっきりとは分かっていない。

チェーン

さて、労働者向けの安い料理としてスタートしたハンバーガー。当然、品質面では問題のある業者が多く、当初は評判が悪かった。


ハンバーガーチェーンの歴史は、まずこの悪評の払底の試みとして始まる。
ウォルト・アンダーソンという男が1916年にハンバーガースタンドを開いた。彼は肉屋から配達された牛肉を客の見えるところで窓ガラス越しに挽肉にし、それを売ったのだ。これが大当たり。
彼はビリー・イングラムという投資家と出会い、ホワイト・キャッスルという店を始める。
ホワイトは清潔さの象徴だったそうだ。


といった辺りからの、ハンバーガーチェーンの歴史が解説されている。20世紀前半だけでも多数のハンバーガーチェーンが登場している。


この清潔さの演出というのは大問題だったようで、ティーンズのたまり場になることを避ける工夫とか、ホームレス対策とかが大変だったという描写が何度も出てくる。


このハンバーガー業界に革命を起こしたのがご存じマクドナルド。徹底したマニュアル方式が、労働力不足対策として生まれたというのは知らなかった。
一号店のサンバーナディーノの店を視察して感心した人々が作った店が、バーガーキング、カールズ・ジュニア、タコ・ベル、ケンタッキーフライドチキン、だというから大変なものだ。
こういった店、とくにハンバーガー店は、マクドナルドといかにして差異化を図るかというのが重要なポイントだった。例えば、ウェンデディーズは大きなハンバーガーを売りにしていた。日本でも時々デカイのを売っているが、伝統なんだね。

ポテト

さて、ハンバーガーと言えばつきものがフライドポテト。実はこれも紆余曲折を経ている。
フライドポテトは難しい料理であり、おまけに高温の油を使うことから火事の原因ともなった。この辺の調理技術は業務用フライヤーにより解決したが、フライドポテトの安定供給を実現させたのは冷凍フライドポテト。シンプロットらが製法を改良し、美味しさと安定性を両立させたフライドポテトが安定供給できるようになったのは1970年代になってからだった。

グローバル化

世界展開の話も紹介されている。米国発のフランチャイズと地元フランチャイズが競合するという形は割と世界中で見られる。日本でもモスが「マクドナルドの逆を行く」方向で成功を納めた。一方でチェーンの方も地元対応を世界中で行っている。
世界中という観点で見ると、ハンバーガーチェーンの成功の理由は、「中間層にアピールしたこと」「客に、効率性、信頼性、予測可能性、清潔さ、そしてトイレが好評」なのだそうだ。


グローバル化アメリカ化の象徴としてのハンバーガーと、それに関連した反ハンバーガー運動のことも書かれているが、その辺は、私にとっては既知の話でした。


こんな感じで200ページ弱の中に、ハンバーガーの歴史が手際よく解説されている。
ハンバーガー発祥から各種チェーン展開の部分は特に興味深いし、古い写真が多数掲載されているの面白い一冊でした。

解説

巻末には、松原好秀氏の解説がついていて、これもまた面白い。本書の内容を踏まえた上で、日本のハンバーガー事情を語っているのだが、

なにしろ「あんぱん」や「カツカレー」を考え出したお国柄ですから、日本人は実に自由な発想とアレンジ力に富んでいます。外国のものを取り入れるや、自分たちに合ったスタイルにすかさずアレンジし、さらにおいしく、もっと便利に、そうした能力に長けた国であると言って良いでしょう。
ハンバーガーに関して言えば、牛肉のパティのみにとらわれることなく、鶏の唐揚げ、魚のフライ、その他魚介類、季節の野菜、地元の珍味や名産品、ごはん、餅、麺類にいたるまで、フレンチやイタリアンの高名なシェフまで加わって、バラエティに富んだバーガーを次々と繰り出しています。(pp.167-168)

と分析して見せた上で、日本人は「バンズという丸いパンの間に挟む」ということに関心が強く、一方アメリカ人は「肉」にこだわりが強いようだ、という指摘は面白いと思った。


その上で、アメリカのハンバーガー文化の広がり(松原氏は、家庭料理から、簡単料理、高級料理まであるという意味で、日本で言えば蕎麦のようなものだ、という表現をしている。)が日本には十分伝わっていなかったが、いわゆるグルメバーガーがそういった広がりを進めてくれるかも、とまとめている。