k-takahashi's blog

個人雑記用

人工知能学会誌 Vol.27 No.5(2012年9月号) 〜東大と囲碁とSF

人工知能学会の学会誌の最新号が色々と面白かった。

ロボットは東大に入れるか

特集の一つ目は、NIIのプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」。5本の論文が掲載されている。
チェスやロボカップと同様の「グランドチャレンジ」として位置づけられているが、10年というグランドチャレンジにしては短期の目標を立てている。
なぜ大学入試問題かというと新井紀子センター長は

  • 人間にとって自然で、内容:・形式ともに多様な入力・出力であること
  • 中心となる知的処理が多様な内容を含むこと
  • 研究の進行を測る客観的な評価尺度が存在すること

の三つをまずあげ、さらに

試験は元来が能力測定のためのデータであり、かなりの程度客観的に合意できる正解が付与され、非常に良くチェックされた質の高いテストデータであることが大きな特徴としてあげられる。また、計算機による解答内容とその精度を人間による解答内容・精度と直接対照することができる点も興味深い。課題データとしてはすでに数十年分の蓄積があり、毎年新たなデータが安価に利用可能となる。(p.465)

としている。こう言われると、確かに良い問題設定のような気がしてくる。


他の論文は、世界史、物理、数学、の各分野においてコンピュータが解かなくてはならない問題はどのようなもので、どのような課題があるのかを解説している。


曖昧にならないよう注意深く作られているような入試問題文でも、コンピュータが処理しようとすると「常識」の活用が必要になってきている。世界史によくある「正しいかどうか判定せよ」が、意外と難しい。(オントロジーが使えるのか、という検証をこれからやるらしい。)


物理にも意外と世界知識が必要で、例として載っていたのがこの図。

これで、「ABD」ではなく「ABCD」と進むということをどうやって判定するのか、というもの。(ローラーコースターという問題文によって人間は「ABCD」を想定する。)
あるいは、「おもりを静かに離す」という文が実は必須格(カラ格)が抜けていてゼロ照応が必要だとか。


数学の場合は、数式処理についてはかなりの性能のものがあるが、その前に以下にして問題文から式を立てるか(立式操作)が必要となる。また、証明問題の場合は、「適切な詳細度」をどうやって定義するかも難しいそうだ。

コンピュータ囲碁

もう一つの特集がコンピュータ囲碁今年の3月にZenが武宮正樹九段とハンディ戦を戦ったが、その解説や、最近の囲碁研究紹介などが掲載されている。


こちらの特殊論文で面白かったのが、「コンピュータ囲碁はコンピュータ将棋と違う」という指摘。

米長邦雄永世棋聖のコンピュータとの対戦を書いた「われ破れたり」を読んだが、囲碁と将棋の研究方法の違いに驚いた。(大橋拓文 p.505)

「狭くなればなるほど正確さを増すというわけではない」ということだ。詰め碁や詰め将棋、将棋などとは違うということだろうか?
これは確率的なアプローチの一つの弱点といえるかもしれない。(大橋拓文 p.506)


あるいは、コンピュータと人の指し型の違い

Zenはこのような「うまくいかない確率が高いが、うまくいけば利得が大きい」手を微妙なタイミングで打つ。これに多くの人間は惑わされるのである。(村松正和 p.513)

ほぼ絶対手というときに限って、より大きい手で対抗しようとする。しかもその手は、受けられるとほとんど意味のない手なのである。
このうち方はZenのモンテカルロ木探索の一つの特徴と思われる。ほぼ絶対に受けなければならない手であると言うことは、次の手が非常に大きい手ということである。右下を生きるような手は、一手一手打っているとうまくいく確率が低いので候補に上がってこないが、右下に一手打ったあと、敵が「非常に大きい手」のほうを打ち、こちらがさらにもう一手右下に打って生きられるような場合には、利得が大きいため、評価値がそこそこの値となる。このようなメカニズムで、相手が「絶対手」を売ったときにあえて他の大きい手で様子を見る、ということになるのではないだろうか。(村松正和 p.515)

ある意味で非常にコンピュータ的な手ということになるようだ。

ショートショート

日本SF作家クラブ(って、瀬名先生だよなあ)の協力で、ショートショートを連載することになったとのこと。「2001年」「ボッコちゃん」「ヴァーチャル・ガール」「ブレードランナー」などを例に、SFと人工知能の関連を紹介している。


掲載されているのは、「十姉妹であるとはどういうことか」(松崎有理)、「死に神」(眉村卓)。一応それっぽい内容。(松崎さんはちょっと狙いすぎかな。)
で、これにつながる、と。