k-takahashi's blog

個人雑記用

はじめてのゲーム理論 〜量子ゲームなら囚人のジレンマを解消できる

はじめてのゲーム理論 (ブルーバックス)

はじめてのゲーム理論 (ブルーバックス)

ナッシュ均衡は、他のプレーヤーの戦略を所与とした場合、どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせである。ナッシュ均衡の下では、どのプレーヤーも戦略を変更する誘因を持たない。

ナッシュ均衡 - Wikipedia

ある集団が、1つの社会状態(資源配分)を選択するとき、集団内の誰かの効用(満足度)を犠牲にしなければ他の誰かの効用を高めることができない状態を、「パレート効率的(Pareto efficient)」であると表現する。また誰の効用も悪化させることなく、少なくとも一人の効用を高めることができるとき、新しい社会状態は前の社会状態をパレート改善(Pareto improvement)するという。言い換えれば、パレート効率的な社会状態とは、どのような社会状態によってもパレート改善ができない社会状態である。

パレート効率性 - Wikipedia

この2つの重要な概念を丁寧に解説し、またそこから派生する様々な話題に触れ、最後に「量子ゲーム」の簡単な解説までしてくれている。入門書的な分かりやすさと最新の話題まで触れてる幅広さを持った一冊。


 著者の問題意識は

人間行動の原理や意志決定の原則を分析する学問であるゲーム理論を応用して、社会を変えることができる。ゲーム理論の中でもとくにこの「メカニズム・デザイン論」という研究分野に、私は非常に惹きつけられました。(はじめに、より)

というところにある。これは「ナッシュ均衡をどうにかしてパレート効率的な状況に導くルールを考え出すこと(p.18)」という意識に繋がる。なので、様々な手法の制限や限界などにも触れられている。この辺が特徴。


ナッシュ均衡の課題である「協調問題」を「複数のナッシュ均衡からどれを選ぶかがうまくいかない」というコーディネーション問題と、囚人のジレンマに代表される協力発生問題として整理するのが第3章。
ここでは「相関均衡」という方法(新たなルールに従うかどうか、という風に問題を再設定する方法)を紹介している。この相関均衡による利得とパレート効率との差を「解決のための税金」と呼んでいるのは面白い。


4章では情報格差がある場合のゲーム、5章はメカニズム・デザインの方法論による問題解決の例の紹介、6章がアローの不可能性定理。


そして7章では、量子ゲームという方法論により囚人のジレンマを解決する話題を取り上げている。量子戦略でナッシュ均衡が両者協力と同じ結果になるのか、と感心。ただ、この辺は、量子計算とか量子暗号とかの知識が全然ないと分かりにくそう。


遊戯用のゲームでも、ルールがおかしいとプレイがおかしくなることがままある。実社会でも変なルール(法律)のせいで妙なことが起こる。ルールの穴を突いてほくそ笑む連中も後を絶たないが、そもそもそういう連中が出ないようなルールを作ることが大事。といった辺りが、「メカニズム・デザイン」の考え方なのだろう。そういう考え方は私の好みでもある。


類書を読んだことがある人なら、1〜6章は既に知っている内容となるだろうが、それでも量子ゲームが囚人のジレンマを解く部分は面白く読めると思う。