社長業のオキテ ゲームクリエーターが遭遇した会社経営の現実と対策
- 作者: 斎藤由多加
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2012/10/26
- メディア: 単行本
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中身は、中小企業社長として体験した様々な事件、その時思った色々な事柄、の紹介。自分が社長業なんぞに手を出すのはゲームの中だけだろうけれど、事業とか経営とかについて考える非常に良い材料になっていると思う。そもそも、着眼の面白さは上記の本でも証明済み。
帯も後書きも孫正義で、うへっと感じるかもしれないが、本書の中でもヨイショしてます。まあ、これはもうそういう個性だということで。
ということで、拾い書き。
願望力
中小企業を経営するために一番必要なのが「願望力」。斎藤氏のようなゲーム会社だと、当然「こんなゲームが創りたい」というのが願望になる。問題は、1作目の後。この「願望」が維持できなくなることがあるそうだ。また、社員が増えるとそれに引きずられたりもする。
しっかりと自分の食べたいものをイメージできている人は、周囲の目を気にせず「このレストランのメニューに自分の欲しいものはない」と言い切って、その場をきっぱり立ち去れる力を持つ人のことを言うのだと思います。(p.58)
これが難しいから「メニュー」というものがあり、ほとんどの人はそこから選んで満足してしまう。会社経営だと、今できる仕事の中から選ぶだけで経営した気分になってしまう。それじゃ、ダメだよという話。
営業
「自分は営業じゃないから」ってのは、たとえフリーランスや個人事業主であっても、そして天才クリエーターであっても、売り上げを立てようとする時点で、使ってはならない言葉だということです。(p.78)
値段の付け方。管理というものに必要なコスト。そういったことを考えなくては経営者の価値はない。
大手との契約書締結のコツ
そこに書かれているべきなのに、書かれていないこと、を発見すること(p.91)
責任範囲とか特殊な条件のときの報酬とか。
ただ、少なくとも日本でビジネスする限りでは、一旦主張した上で「両者協議の上で取り決めるものとする」というところに落とすのが有効であるとも。
リセットのコストと効果
へえ、と思ったエピソード。
著名な音楽プロデューサーの方と対談をしたことがあります。氏は、Macで演奏をすべて作っておいて、ミュージシャンがレコーディングに来る当日、それを聞かせて生の楽器を弾いてもらうという。対談の際に、「最後は人間に弾かせるのに、なぜわざわざコンピュータでそこまで精緻にダミートラックを作り込むのですか?」と聞いてみました。
氏はこう答えました。
「私たちのレコーディングスタジオに来る直前まで、そのミュージシャンは全く別の仕事をしているわけで、それがどんな音楽だったのかは分からない。ただ間違いなくそのノリが彼の頭の中を占めているので、それをリセットしないと、その前のノリのままで演奏されてしまったのでは違う音楽になってしまう。
(pp.123-124)
よく、「スイッチを入れる」とか「シャープナー」とか言う言い方をするが、このエピソードはなぜそういう行為や仕事を始めるための習慣が必要かをうまく説明していると思った。
また、「その前のノリ」を外すというのは、頭が硬くなったのをほぐすという意味でもある。
感動のプロセスを時短できるという幻想(p.212-)
これはタイトルの通り。生の情報と圧縮された情報は同じではないということ。
社長
小さな会社、特に創業者経営者の会社は、結局のところ、「会社=社長」なんだな、というが本書を読むと納得できる。
それが小企業の強みであり、弱みである。
*1: ハンバーガーを待つ3分間の値段―ゲームクリエーターの発想術 (幻冬舎セレクト)