- 作者: 吉田満,原勝洋
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/09/20
- メディア: Kindle版
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戦記文学の傑作『戦艦大和ノ最期』*1が書かれたのは、昭和20年の秋。「第一行を書き下した時、おのずからそれは文語体であった」という逸話が伝えられており、現在もこの文語体のものが入手できる。昭和21年には、出版直前にGHQの検閲で発行できず、その後、修正されたもの(口語体版を含む)が幾つか出ているが、「一夜にして書き上げられた」と言われ、異様な迫力があるのは、初稿だろう。
戦後の「大和伝説」に大きく寄与した作品であり、歴史に残る一作ではあるが、上記の執筆経緯から明らかなように、綿密な取材に基づいたノンフィクションではないし、ましてや研究書でもない。記述には勘違いや創作も含まれていると言われている。(「初霜」ファンが憤慨している件についてはこちらとかを参照)。
ならば、実際にはどうだったのか、というのを日米の戦史資料収集、生存者へのインタビューを10年に渡り重ね、米軍秘密資料の解禁(30年)を待ってまとめあげたのが本書。発表が昭和51年なのは戦後30年ということである。
時系列にまとめられた様々な資料や証言は、ノンフィクションとして坊ノ岬沖海戦を描き上げている。
特に『最期』には書かれていない米側の記載が興味深い。攻撃調整のシーン、艦隊決戦がなくなったことの驚き(戦艦メリーランドは大和との決戦を望むがために、第三主砲の不調を隠していたそうだ)なども書かれている。
一番興味深かったのが、米軍の魚雷改良の記載。開戦当初の米軍の魚雷の不評はよく知られている(ミッドウェーで戦果をあげたのが爆撃機だったことを思い起こされたし)。1942年の試験ではボロボロだった米魚雷が改良を重ね、1944年秋になってようやく改良が完了する。さらに戦術改良(爆撃と雷撃のタイミング合わせとか、飛行中の魚雷深度変更とか)もすすめ、そういった成果が大和の撃沈に繋がったということで、米軍も決して楽な戦いをしていたわけではないことが分かる。
坊ノ岬沖海戦実況
http://togetter.com/li/805784 に時系列で並べた海戦の実況ツイートまとめがある。労作。
*1: