k-takahashi's blog

個人雑記用

1100日間の葛藤

 

コロナ対策のリーダーの一人尾身滋先生の手記。2020年新年早々に武漢のニュースを聞くところから、執筆時点の2023年春までの期間、専門家として何を考え何をやってきたかを手記としてまとめた本。

 

そもそも私たち専門家の最も重要な役割は、感染リスクの分析・評価と、求められる対策を政府に提案することであった。それに最も多くの時間と労力を割いてきた。コロナ禍の3年間で私たち専門家が出した提言は100以上に上り、できるだけ根拠も示してきた。私自身はこれらの提言を「作品」と呼んでいた。

この「作品」づくりで最も意識したことは、合理的で人々に納得してもらえるかどうか。歴史の検証に堪えられるかどうかだった。(No.37)

こういう情報があった、こういう認識であった、こういう方針で判断をした、こういう発表(提言)をした、といことを時系列順に記した一冊。

なので、同じような内容が何度も出てきたり、そういったものが微妙に違っている部分があったりする。読んで分かりやすいということよりも後に使うための資料という意識を優先しているのだろう。

似たような理由から、誰が悪い的な記載も非常に少ない。そうった評価は後に行えば良い(歴史の検証)観点からだろう。

 

私や西浦さんなどの元には何度か殺害を予告する脅迫状が届いた(No.3567)

もさらっと書いているだけ。犯人像、煽った連中などについてはやはりほとんど書いていない。

 

自分がその当時何をしていて、どういう感想を持っていたか、というのを思い起こしながら読み進めていた。

 

で、当然ながらこれからどうするというのが重要で、それに活かさなければ尾身先生の苦労(実際の御苦労と、本書をまとめる御苦労の両方)が報われない。とはいえ、本書で書かれている内容は妥当というか普通のもので、具体化なアクションに落としていくのはこれからということになる。

この情報が届かなかった、この意図が伝わらなかった、こういう人達に伝わらなかった、これをやって貰えなかった、というようなことが色々と具体的に書かれている。いわゆるリスコミの問題なんだが、難しそう。

その点で面白かったのが

ウイルスの特徴や感染状況が各政権期の対応とある程度相関していることだ。(No.3335)

というところ。こういう部分の分析をきちんと行うことも大事だろう。

 

政府の対応については、私も「そりゃそうだろう」という部分と「なんで?」という部分が混ざった感想を当時感じていたし、それは本書の記載とそれほど大きな乖離はなかった。ただ、年初の能登地震についてのいわゆる「朝日・山本・ラサール問題」を見ていると、政府の懸念の幾つかについては彼らの判断が妥当だったのだな、と思う部分は増えた。

 

自分の記憶があまり薄れない(混乱しない)うちに、日時を確認しながら読むといいと思う。