k-takahashi's blog

個人雑記用

戦略論

戦略論――間接的アプローチ

戦略論――間接的アプローチ

 長らく絶版になっていた本ですが、今年ようやく復刊なりました。「間接アプローチが有効なんだぞ」ということをひたすら解説している本です。
 但し、昔出ていた本のフォトコピーから起こしたらしく、文字が不鮮明で読みにくいです。また、翻訳も古いもので、文章自体も読みにくい。もともと、イギリスのインテリ層向けに書かれた本であるため、歴史や軍事についての基本的な知識が前提とされています。前半はひたすら歴史的な実例をもとに著者の主張の正しさを説いているのですが、事件も地名も人名も全然解説が無いためかなり分かりにくいです。私も、ナポレオン戦争以降はともかくとして、中世の戦いとなると要領が分からず困りました。
 また、値段も3500円と高めです。


 と、このくらい脅かしておけばよいだろうか。凄く良い本です。軍事に興味のある人なら買っておくべきでしょう。


 ただ、頭から読み通すと大変すぎます。上述の通り、歴史・軍事知識が前提とされていて、その辺のサポートがないのです。ですので、第20章「戦略及び戦術の神髄」だけ読んでおいて、あとは必要に応じて読むのが良いと思います。ちなみに、神髄はカバーの部分に書かれています。

  • 目的を手段に適合させよ
  • 常に目的を銘記せよ
  • 最小予期路線を選べ
  • 最小抵抗線に乗ぜよ
  • 予備目標への切り替えを許す作戦戦をとれ
  • 計画および配備が状況に適合するよう、それらの柔軟性を確保せよ
  • 相手が油断していないうちは、わが兵力を打撃に投入するな
  • 一旦失敗した後、それと同一の線に沿う攻撃を再開するな

当たり前のことのように見えますし、実際当たり前のことです。ですが、その実行が難しく、実行すれば成果があがることを、本書では歴史的事例から繰り返し繰り返し説明しているのです。


 30年戦争の本を読んだら、「リデル・ハートは何と言っているかな?」と本書の該当部分を読んでみる。そういう辞書的な使い方がよいのではないかと思います。もちろん、その戦争について一通り知っているのであれば、該当部分は興味深く読めると思います。ゲーマーならヒトラー戦争のところは分かると思いますし、日本絡みのところ(日露戦争大東亜戦争)も理解できるでしょう。

 ちょっと、日露戦争のところから引用します。

 すなわち、戦争の初期、日本軍の戦略としては、ポナパルトが敵を誘い出す囮としてマンチュアを利用したように、日本軍もまた旅順を囮として利用することにより、何らかの利益を得ることはできなかったであろうかということである。そして、戦争の後半では、ハルビンから奉天に至るロシア軍の細長い気管に対して、少なくとも日本軍の一部を使用するという考えは成り立たなかったであろうかということである。

いきなりこれです。日露戦争の経緯の説明も地図も何もなくこの文書が出てきます。これを理解せよというのが、著者の読者に対する立場です。敷居の高さが分かるでしょうか。

 また、大東亜戦争についても、その記述はわずか6ページです。著者の主目的である間接アプローチについては、1942年のビルマ攻勢が、「アジア大陸全体での日本の主目的にとっては間接的アプローチであった」とされ、1943年以降の米軍の飛び石戦略が「間接的アプローチの戦略の一変形」とされています。
 しかし、なんと言っても凄いのは、ミッドウェー海戦に触れられていないこと。大東亜戦争全体を戦略的観点から語るのであれば、触れる必要はないということなんですね。


 昔、初めてリデル・ハートの名前を聞いたときには、クラウゼビッツの戦争論を否定する立場、みたいな紹介をされていて、そう思っていましたが、実際に読んでみるとちょっと印象が違いました。クラウゼビッツの論に間違いや不足な点があるという指摘は確かにあるものの、全体としては、クラウゼビッツを理解していない連中が多いという批判のようです。やはり、読んでみるものですね。


 本書を読んでビジネスに生かすとかいう言い方もされますが、素直に教養書として時折読むのがよいのではないでしょうか。私は辞書的な使い方をお薦めします。