- 作者: 井上孝司
- 出版社/メーカー: 光人社
- 発売日: 2010/10/21
- メディア: 単行本
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敵も味方も配置状況がすべて丸見えになっている『大戦略II』では、慎重すぎるせいで時間がかかることが多かったものの、ほぼ完勝だった。
(中略)
ところが、味方部隊の周辺しか状況が見えず、それ以外のところに敵がいるのか無いのかが分からない『大戦略III』になったら、たちまち苦戦するようになってしまった。(はじめに、より)
なぜ、状況認識が重要なのか、を筆者がこのゲーム体験から説明している。そして、これを大幅に改善するのが軍事におけるIT革命というわけである。
元々筆者(井上孝司)は、IT系の仕事からライターになった人だけあって、IT系には強い。
IT業界で10年近く仕事をしていたおかげで情報通信系の話には強いが、まさかそれだけが「C4ISRシフト」の理由ではあるまい。「状況が見えていないせいで負けた話」を幾つも読んだ子供の時代。実際にウォー・ゲームをプレイして苦戦した経験、そして、IT分野における経験・知識の蓄積の相乗作用が、今の自分のすがたにつながっているのではないか(はじめに、より)
ソフトやネットワーク、情報処理がいかに重要か、そこのどんな困難があるのかを非常に細かく解説している。第7章のlink16(米軍のデータリンクの規格)の話など、これだけ細かい記事ははじめて読んだ。
一方で、そのデータリンクの話よりも、無人機の話よりも、軍用コンピュータの話よりも、前の第2章に書かれているのが兵站の話であるところも面白い。(テクノロジーとしては、RFIDの話なのだが、RFIDの情報を管理するシステムや、RFIDを活用するためのメンテナンス手順の再考慮まで話が及ぶ。)
ミサイルを積もうと思ったら情報通信用のコネクターのピンが足りなかったことがあったり、海外展開の多い米軍で通信周波数の調整が色々大変だったり、ソフトの輸出規制の関係で積んだミサイルが運用できなくなりかけたりとか、細かいエピソードも色々。
基本的に米軍の話が中心。中共のサイバー戦や衛星破壊の話などはほとんど出てきません。軍事情勢の分析よりも、ITと軍事の関わりの話が中心となっています。
しかし、聞き慣れない略語が山のように出てくる(巻末の略語辞典は助かったが、さすがに本文中に誤植と思われる記述が幾つか。ただ誤植かどうかの判断もつかないことも多い。)ので、読むのはなかなか大変。著者も書いているように、参考書的に随時「参照する」本なのかもしれない。でも、ざっとでも読んでおくと一通りの雰囲気は分かるので、個人的には通読をお薦めします。